text | ナノ
「あ、」
昼前の若干混んできたスーパーの食品売り場で、剣城を見つけた。
自主練帰りにたまたま安売りのスポーツ飲料(学生の財布にとってはとても有難い)を買いに来ていた狩屋は、その見慣れた特徴的な頭を発見するや否やこっそりと後ろから近づき。
「わっ!」
「っ、!?」
品選びに夢中になっていたらしい剣城は気配に気づかなかったらしく、割と大げさに肩を揺らして驚いてくれた。誰だと思いきり振り返ってきた先に見えた緑の髪と特徴的な嫌味ったらしい笑い声に、すぐに該当人物を特定できた。
「お前か……」
「お前かって何だよ、俺は狩屋だっつうの」
「そうか」
適当に狩屋をあしらった剣城は品定めに戻る。選んだらしい二つのパックを見比べる行為を狩屋が覗き込む。
「アサリ?昼飯?」
「お前には関係ない」
「剣城くん料理出来るんだー。普段購買飯ばっかだから何か意外」
話を聞かない狩屋にうんざりしつつも片方のパックをカゴに入れ、ついでにバジルも放り込む。この材料だけで大方何を作るか予想が出来る自分は何なんだろうと思いつつ、剣城とは違う列のレジで会計を済ませる。 自分の会計が済み店を出ようとする剣城を追いかける。待てよ、とは言ってみるが彼が一緒に来たわけでもない狩屋を待つ理由は無い。此処まで来るともう意地みたいなもので、走ってぐっと距離を詰める。練習後の疲労が足に溜まって重く感じる。伸ばした手でぐい、と肩を引き寄せた。
「待てっつうの…っ、おい待て馬鹿!」
「…何の用だ」
「用…?」
心底面倒くさいといったような顔をして漸く振り向いた剣城がそう尋ねると、狩屋はきょとんとはてなを顔に浮かべた。はて自分は何故剣城を追いかけていたのだろうか。むっと湧き上がった苛々と意地からだとはわかっているが、それを本人に言ったところで納得するだろうか。仮に納得こそすれど呆れられて終了だろう。普通ならそれでいいのだがそれは何故だか狩屋の腑に落ちない。
剣城の肩を掴んだまま、数十秒。
きゅるる、と不意に切ない腹の虫の音が二人の間に鳴った。聞いた側…剣城はは、と軽く目を見開いて、聞かれた側…狩屋は最初こそ固まってはいたが、次第に顔を真っ赤にさせていく。ぎりぎりと剣城を掴む力が強まる。
「お前…腹減って」
「ねえよ馬鹿!」
「道の真ん中で馬鹿馬鹿五月蠅いぞ。腹減ってるからイラついてんだろ」
ほぼ図星過ぎて言い返せない。狩屋が返答をする度にぐるりと空腹をアピールするように鳴る音の説得力のある事。かぁ、と顔を赤くさせながら歯切れ悪く否定語ばかり並べる狩屋に、ぷっとらしくない笑い。
「笑うなよ!」
「悪い」
「ぜってえ悪いだなんて思ってないだろ!」
「その腹の虫が治まらないと、説得力皆無だな」
「うるっせえええええ!」
尚も止まない空腹音に恥ずかしくなる。練習後の身では仕方の無い事なのだが、如何せん相手が悪かったと思う。 口喧嘩に負けた子供のようにきいっと押し黙っていると、これまた不意に。
「……おい」
「…………んだよ、」
「…昼飯、食うか?」
ぽつりと呟いた言葉に狩屋が目をぱちくりさせながら剣城を見る。今の自分は随分と間抜けた面をしているんだろうな、と気づくのに時間はかからず、されど返答に迷う。そして真昼を告げるエコーがかった放送音が鳴り響いた後。
「…献立は」
「アサリのパスタ。場合によっちゃトマトのスープパスタ」
「……スープなら、食べる」
懐かない猫の手懐け方 (別に腹減ったわけじゃないからな!くれるっていうから仕方なく食ってやるんだからな!) (……デザートにシュークリームがあるが) (……いただきます)
*** たまってたものをごそごそと出しました。
剣城と狩屋の素直じゃない組が大好きです。 剣城が料理出来る子ならいいな。凝ったのは無理だけど、中の上ぐらいまでなら出来るとか。たかりに行きたくなる系男子とか。
120511
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