text | ナノ



繋がってるようで繋がってないようなクロハイみっつ(捏造ありあり)



 オレ自身、あれこれあってアポ無し突撃はそこそこやらかしてたけど、いざ自分がされる立場になると非常に迷惑というか面倒になるということがわかった。今度から気をつけようと思う。

 丁度昼飯時に嵐みたいにやってきた来訪者分の材料が冷蔵庫に残ってなかったから、慌てて自転車に跨ってスーパーへと向かった。今日は外出の予定なんてなかったのに。財布とエコバックだけを引っ掴んで家を出てきたせいで色々と訊きそびれたが、まぁいい。アイツは何を出しても美味い美味いと面白いように食べるから、メニューに関してはあんまし気にしなくていいのだ。
 昼前に滑り込んだスーパーのタイムセールで何とか獲得できた戦利品を引っ提げて、オレは来た道を戻る。行きに全力疾走してそのままの勢いでスーパーに突撃したからか、ペダルを漕ぐ足は重くて、行きよりものんびりとしたスピードで景色が流れる。

 そういえば家に放置してきたアイツは何もしてないだろうか、とふと思う。出際にあそこは触るなこっちには入るな、と再三釘は刺してきたけど、それを完全に守ってるとは思えない。まぁオレが見られて困る物は少ないし、懸念してるのはミクルさん関連の方だけど、流石のアイツもそこら辺の倫理観ぐらい持ってるはずだと信じたい。それでも、なんとなく信頼よりも心配の方が勝ったせいで、オレはペダルに乗せた足を一気に踏み出す羽目になる。

 そう遠い距離ではないけど、やっぱり外に出て重い荷物を持って帰ってくる流れは学生の身でも疲れる。ここからさらに飯を作らなきゃいけないわけだから、オレの疲労は増えるばっかりだ。今日は泊まっていくんだろうか、なら夕飯も作らなくちゃいけなくなるのか……。明日までミクルさんは帰ってこないから、そこそこ適当にやり過ごそうと思っていた一日に突然暴風がぶち当たってきたような気分だ。オレに体力ゲージがあるとしたら、今は多分赤点滅の手前。
 そんなこんなで玄関を開ければ、若干ひんやりとした空気が身体を包む。扉の開いた音に反応したらしい来客が、バタバタと忙しくこっちに駆けて来る。

「クロノおかえりー!」

 その一言で、暑さも面倒も疲労も吹っ飛ぶなんて、オレも大概単純だ。





「クロノは好き嫌いしないよね」

 黙々とハヤシライスを頬張るオレを見ながら、ふとハイメが呟いた。あんまり意識したことはなかったけど、言われてみれば確かにそんな気がした。施設暮らしのせいか、『好き嫌いなく何でも食べましょう』なんて言葉が根底に染み込んでいるのかもしれない。かくいうハイメも割かし何でも食べる方だ。おかしな物を出しても興味本位で突いて口に運ぶのは性格故だろうが(ネタで納豆を出したときのテンションは最高にハイだった、ハイメだけに)。

「施設じゃそういうの結構言われてたからかもな」
「オレもよく言われたなぁ、全ての食材には命があります、みたいな」
「そーそー」
「そういえば、ニッポンのコメは神様の命でできてるんだろう?」
「そーそー……ん、ちょっと違う気が……」

 米一粒に神様が七人居るとかなんとかじゃなかっただろうか。そこまで信仰心があるわけじゃないから記憶は曖昧だ。

「難しいことはクロノに訊くべきじゃなかったね、あとでマモルかイブキに訊くよ」
「おま、さらっとオレを貶すなよ……ていうか待て、マモルさんは兎も角伊吹はやめろ」
「えーっ」
「……しょうがねぇな、あとで図書館連れてってやる」
「わぉアナログ!」
「お前にパソコン触らせてブルスクはもう嫌だ」

 行くならさっさと食べちゃえよ、と促せば、聞き分けよく残りのハヤシライスを胃に収めていく。皿を持ってがぶがぶ飲み物みたいに吸い込むのは行儀が悪いからやめてほしい。こいつ本当にオレより年上か。

「ごちそうさまーっ!」
「おい口の回り汚いぞ」

 こいつ本当にオレより年上なのか……。

「拭いたよ!」
「おいなんだこのグリンピース」

 こいつ本当にオレより年上なんだよな!?





「クロノ、ギブ、ギブ、痛い痛い」
「加減してないからな」
「あいだだだだだ!」

 何がどうなって風呂場ですっ転ぶなんて幼児並なアクシデント起こすんだこいつは。
 皿洗い中にドンドゴドンッ! なんて反響音聞いたせいで、危うく滑って皿を割るところだった。慌てて風呂場に行けば、真っ裸で目ぇ回してるハイメが倒れ込んでて、仕方なしに引き摺って救助成功。ハイメ曰く辛うじて受身を取ったので頭は無事みたいだったが(若干別の意味に聞こえてくるのは気のせいだろう)、盛大にタイルへとぶつけた肘やら何やらは赤くなっていた。わざと突いてみればぎゃん! と犬の鳴き声のような悲鳴のような、何とも言い表しがたい声と共に飛び上がるハイメ。つくづく年下を相手にしている気分だ。

「本当に頭、大丈夫なんだろうな?」
「肘打ってじんじんするだけだし平気へーき。ていうか、言い方にに五平餅があるように聞こえるんだけど」
「大丈夫だな」

 わけのわからない言い間違いをするならいつも通りだ、そう信じたい。幸いというべきか、今日こいつはウチに泊まっていくことになってるから、最悪何かあってもオレが動けばいい。
 打って血の滲む肘に絆創膏を貼ってやろうとして、ふと貸したTシャツから覗く褐色と、風呂で温まったのと打撲でさした二重の赤が視界に映って、ごくりと息を飲んでしまった。例えるなら何だか見てはいけないものを見てしまったような、或いはこいつでも怪我するんだなぁ、なんて目の前の男が雲の上の人間じゃないことを知ってしまったような、これまた形容し難い感覚が心臓の奥を擽る。。数秒固まってただけだってのに、目敏いハイメは「どうしたの?」なんて首を傾げてくる(あざとい)。拍子に濡れた髪から雫がぽたぽた垂れて、シャツに染みを作っていくのを見て、漸くオレの意識が現実に戻ってきた。

「お、ま……っ、髪拭け! 床濡らすなよ!」
「クロノが早くバンソーコー貼ってくれればすぐにでも拭くよー。何で傷口まじまじ見てるの? 好きなの?」
「人をそういう特殊性癖持ちみたいに言うな!」

 これで血の一滴でも垂れてればまぁわからないでもないが(いやわかるのも嫌なんだけど)、打撲痕に興奮するってどういうことだよ。ヤバいを通り越して理解できねぇよ。だけどハイメの独特の肌色に差す火照ったような赤はどうしてもちらちらとオレの目に映るし、ちょっと視線を動かせば肘どころか膝だの頬だのも視界に入ってくる。ついでに言えば髪先から落ちる水滴がつぅっと顔やら首やらを伝って襟ぐりを濡らしていくのも目に入るのだ。扇情的ってのはこういうことを言うのかもしれない。ぎくりと動きを止めてると、オレが髪を拭かないことに怒っていると勘違いしたハイメが、慌ててバスタオルで頭を拭き始めた。ハイメがぷるぷる頭を振る度に、滴るほどに残っていた水分が跳ねる。床を! 濡らすなって! 言ったばっかなんだけど!! 流石に我慢ならず、ハイメの頭をタオルごと掴んで、がしがしと乱雑に拭いてやる。思った以上に濡れているタオルは、コイツが碌に髪を拭かずにいた証拠だ。

「痛い、クロノ痛い痛い!」
「うるせぇ……!」
「うぅー……!」

 涙目できゃんきゃんと吠えるハイメを犬のようだと呆れてたくせに、その上目遣いにどきりとしてしまったオレは負けなんだと思う。



***
完全に子供の面倒見るクロノさんになったんですが……お兄さんぶるおいたん書くはずだったんですが……。
やんわりとお題に沿っているようで沿っていない。

おかえり、が、嬉しい/(まだ残ってる、)/泣かないって言ったけど、痛いって言わないとは言ってないよ/小説お題ったー。
201608 (ハイメくんお誕生日おめでとうございます)
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