text | ナノ

「てんちょー、ここで大丈夫っすかー?」
「はーい、問題ないですよー!」

 店の倉庫から引っ張り出してきた大きな箱を指示の通りレジの横に置いたカムイは、ふぅと息を吐きながら汗を拭う真似をしてみせた。
 いよいよ冬も本番になり、すっかりワイシャツ一枚では過ごしにくくなってしまったが、店内は暖房のおかげで寒さに騒がずいられる。客相手の商売だからか、そういった部分に手が抜かれることがないのは、バイターであるカムイにとってもありがたい話である。寒いのは街の通りと学校だけで十分だ。

「しかしまぁ、もうこんな季節なんすね」
「一年が早く感じるようになったなんて、カムイくんも大人になりましたねぇ」

 カムイに続いて倉庫から出てきたシンが、抱えた箱をカウンターに置きながらしみじみと呟いた。ついこの間まで小学生だった彼が、中学生になったかと思えばもう高校生だなんて。姪のときにも感じたが、子供の成長はとても早いものだ。そう感じるのは、シンがそれだけの時間、彼らを見守ってきたということでもある。

「さて、早いとこ組み立てちゃいましょう。飾り付けは最初に来た子にお願いするということで」
「了解!」





「さみぃ……」
「アンタさっきからそればっか! 口に出すから余計感じるのよ、暑い暑いって言ってれば気分紛れるんじゃない?」
「暑い、暑い暑い暑い暑い暑い……」
「やめようクロノ、気を違えたのかと思うから……」

 そんな掛け合いをしながらやってきたのは、いつもの三人。彼らが入店すると同時に、カムイはガッツポーズを、シンは頭を抱えて蹲った。よくわからない光景に足を竦ませていると、満面の笑みのカムイが「よっ」と声をかけてくる。

「いやー、流石俺!」
「こんちわ……何が流石なんです?」
「今日の最初の客が誰だか店長と賭けしててさ。俺はお前たち、店長はそれ以外に賭けてたんだ」
「へぇ」
「だって確率的には私の方が高いじゃないですかぁ! なのにカムイくんったらドンピシャで当てるもんですから……」
「へへっ、ゲット、クリティカルトリガーって感じっすかね? それじゃ約束通り新弾十パック、店長の奢りで!」
「ひぇぇええ……」

 ピースサインに負けないしたり顔の笑みでカムイが言えば、シンは苦い表情のまま「ミサキに知れたら」だの「私の小遣いが」だのとぶつぶつ呟きながら倉庫へと消えていった。
 ご愁傷様だなぁ、とシオンが苦笑しながらカウンターを見ていると、ふとその脇に前回来たときにはなかった、見覚えのない物が置かれていた。カムイの背丈よりちょっと大きな、彩のないクリスマスツリー。そういえば、街でもそれに会わせてか赤と緑の装飾が目立っていたような。

「もう十二月なんだね、早いなぁ」
「そうねぇ……あ、また皆でパーティーしない? クリスマスパーティー。ケーキ作りはクロノに任せるわ」
「……材料費は割り勘だからな」

 とんとん拍子にイベントが決まっていく様は見ていて気持ちがいい。少し前までは提案する側だったカムイも、彼等に昔の自分の影を見たような気がして、懐かしそうに微笑んだ。

「また此処でパーティー……は、今度こそミサキさんに怒られるから、今度はどっか飲み食いオッケーな場所借りてやれよー」
「え、カムイさん一緒にやらないんですか?」
「悪いけど、別のお誘いがあってさ。同年代同士、水入らずで騒いでこいよ」

 てっきり混ざるものだとばかり思っていたカムイの不在に眉を下げるクロノだが、苦笑した様子で「年明けの初詣は付き合ってやるから」と言われてしまえば渋々納得する他ない。まるで歳の離れた兄弟のようなやりとりに、何だか似たような光景に覚えのあるトコハは、自分たちを客観的に見るとこんな感じだったのかなぁ、と自分が小さい頃を思い出していた。

「さて、ファイトをしに来たお前たちだろうけど、その前にひと仕事頼まれてくれ」
「クエストですか?」
「残念ながら」

 その一言に、クロノが口を尖らせ、あからさまに不満そうな表情を作る。

「えー、寒い中折角来たのに、ポイントもなしでタダ働きかよ」
「流石にその言い方はないんじゃないかな、いつもお世話になってるわけだし……」
「売れ残りのパック貰えたりするならー、とは思うけど……」
「案ずるなお前たち! 俺もそこまで鬼じゃない。終わったら俺がコンビニで何か奢ってやる!」
「マジっすか!」
「何手伝えばいいんですか!」
「店の掃除ですか? ストレージ整理ですか?」
「お前ら、ご褒美が出るって聞いた瞬間変わり身が早いな……」

 まぁいいや、と現金な三人組を手招いて、カムイはカウンターのダンボールの中身を見せた。覗いた先には星やボール、その他色とりどりのオーナメントたちがぎっしりと詰まっている。少なからずどこかで見たことのあるそれらと、裸のツリー。ひと仕事が何なのか、言われずともわかった。

「飾りつけやっていいんですか!?」
「おっ、嬉しそうだなトコハちゃん。じゃあ後は任せた、好きに飾っていいからさ。お前たちのセンス、信じてるぜ」

 ふたつのダンボールをそれぞれクロノとシオンに任せ、ひらひらと手を振りながら店を出て行くカムイ。後ろから「買い出しお願いしますねぇ」とひょろひょろしたシンの声が倉庫から聞こえてくる。どうやらサボりではないらしい。
 残された三人は、カムイが店を出ていった扉を眺めた後、ゆるゆると見つめあった。

「任されちゃったね」
「……しゃーねぇ。ちゃっちゃと終わらせてファイトして、帰りにカムイさんに何か奢ってもらおうぜ」
「ちょっと二人とも、早く箱開けてよ」
「お前はりきり過ぎじゃね?」
「いいじゃない飾りつけ! 楽しいでしょ!」
「まぁまぁ」

 そこから約一時間、チーム・トライスリーによるクリスマスツリー飾りつけ大作戦が始まる。





 のんびりと買い出しを済ませて帰ってきたカムイと、三人の歓声に引っ張り出されたシンは、彩られたツリーを見てこう語る。

「なかなか悪くないんじゃないっすか? あいつららしい感じがして」
「性格出ますよねぇ、こういうのは」

***
二月遅いメリークリスマス!



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