text | ナノ


最近の設定と辻褄合わせしてたりできてなかったり
基本は独自設定もりもり



(テオとクレア/かすれた意識が君を呼ぶ)


「外の世界を知りたいの」

 そう呟いた彼女はいつもみたいに柔らかく、どこか諦めたように俺に笑いかけた。それが叶うことのない夢だなんてことは、俺も彼女もわかりきっている。
 綺麗な水と綺麗な空気。身体の弱い彼女は、澄んだ深海でしか囀れず、この聖域から出ることを赦されない、まるで鳥籠の飼い鳥のような存在。
 俺が彼女に出逢ったことも、こうやってふらりとやってきては彼女に会えることも、俺の中では殆ど奇跡に近くて。そして訪れる度にいらっしゃい、と微笑んでくれる彼女の姿にいつも酷く安堵するのだ。嗚呼、まだいきをしている。してくれている。

「わたしと会うのは億劫?」
「……馬鹿を言うな」
「わたしが生きていて嬉しい?」
「ああ」
「それにはすぐ答えるのね」
「君とずっと居たいんだ」
「ありがとう」

 ふふ、と悲しそうに笑う彼女を、俺はあと何度見れるのだろうか。




(アルゴスとレインディア/貴方の言葉で色めくの)


 私の歌声を「綺麗」だと、飾りのない言葉で素っ気なく褒めるのは貴方ぐらいよ、とからかいを込めて言えば、すまないと愛想のない返し。深遠の唱姫だ世界一の海溝だと、煌びやかに着飾った呼び名や褒め言葉に飽きを見出していた私からすれば、彼の子供のような拙いその一言は、鈍く光る原石のようだった。

「言葉選びが苦手なのだ、すまない」
「任務の時は饒舌なのにね」
「……何処でそれを」
「少佐のところの部下さんから」

 おしゃべりな子も居たのね、と茶化せば、頭を抱えて誰かの名前を呟いた。私が誰と言わずとも大方目星はついているらしい。後で叱られちゃうのかしら、だとしたら少し悪いことをしたかもしれないわね。

「あまり怒らないであげて頂戴ね。私の知らない貴方のお話を聞きたかっただけなのよ」
「……そうは言うが、口が軽いのも問題だ」
「もう、私と居るんだから、他の子の話ばかりしていないで」
「君から撒いた話だろうに」

 そう言って笑う少佐が物珍しくて、私もくすりと微笑んだ。また一つ、貴方を知れたような気がした。




(サンダーブレイクとライライ/だから私は太陽になれない)

 サン、と太陽を沢山含んだような暖かな声で私を呼んだ彼女の目線まで首を下げると、するりと小さな手で頬を撫でられた。任務で負傷したわけではないというのに、その手つきは怪我に触れるようなもので。何を心配しているのだろうか。

「泣いていない?」
「……お前はまた変わったことを訊くな。泣いてなどいない」

 持ち上げた腕は人間のそれとは比べ物にならないぐらい大きく武骨で、彼女を傷つけないように注意しながら頭を小突くと、その手すらも取られる。これじゃあまるっきり子供扱いじゃないかとは言えず、彼女にされるがままが続く。

「サンの雷の音がね、時々泣いているように聞こえるの」

 だからきちんと泣いていいんだよ。
 そうやって生温い体温であやすのはやめてほしかった。そんな真綿のような優しさは、戦士の自分には些か苦し過ぎるから。そんな葛藤を知ってか知らずか、彼女はまた笑うのだ。




(ナイトストームとルージュ/甘言には靡きませんので)


「麗しのミス・ルージュ、またよろしく頼むよ」
「あらミスター、私はもう診ないって言った筈よ。それと顔が近いわ」

 わざとらしく振舞っても一向に彼が引かないから、仕方なく腹部に蹴りを叩き込む。くぐもった声と共に漸く膝をついた彼を見下ろしながら、身体をざっと見。今日は腕か。
 (一応は)患者を蹴り飛ばすのはいかがなものかと思われるだろうが、相手が彼である分には問題ない。それに、どれだけ身体に傷を負おうとそう簡単にくたばる柔さじゃないことは、船医である私が一番よく知っている。

「手厳しいな全く……」
「こうなるってわかっているのに此処に来るんだもの、貴方相当おかしいわ。何、遂に頭までイッちゃったの?」
「貴女のような美人を見ていれば、目も頭も眩むよ」
「はいはい」

 口説き文句はいつものことだから適当にあしらう。どきり、なんて微塵ももしやしない。普段の彼を見ていればこの船の女陣は絶対に靡くことなどない台詞は、しかし外界の女性には効果てき面らしい。こんな女好きのどこがいいのかやら。やっぱり見た目かしら。

「そこの椅子に座って頂戴」
「優しく頼むよ」
「貴方が私に馬鹿なことをしなければ、最小限で済むわよ」

 貴重な薬が減って怒られるのは貴方じゃないのよ、そう意味を込めて睨みつけても、へらりと笑って済ます彼には本当に頭を抱える。そんな私の気も知らずに、悩んでいる表情もまた美人だとかぼやく彼の腕に、思いっきり消毒液を吹きかけてやった。




(メテオブレイクとふろまーじゅ/君の前だけ猫かぶり)


 もう二重の意味で溜め息を吐きたいぐらいだわ。あの子達の仕事振りは関心ものなのだけれど、如何せんやり方が……ね。激し過ぎるというか、もう少し限度を知ってほしいというか。
 一応バトルシスターズのトップに置いてもらっている身として、私自身が文武両道で債務をきっちりこなす存在でありたいのに、断罪者の数を減らすことよりも始末書の数を減らすことが最近は優先事項になりつつあるんだもの。寝不足なんて構っていられなくて、そのせいで隙を生んでしまい負傷する。それを見た他のメンバーが弔い合戦だと言わんばかりに武器をそこら中にぶっ放すものだから、また私の仕事が増える。嬉しいような悲しいような、そんなループをずうっと繰り返し続けているからかわからないけれど、「少し老けた?」なんてくっきーに言われるの。貴女のせいですよとも言えないから、押し黙るしかないのだけど。まともな子はぱるふぇとくりーむともかぐらいだわ。嗚呼、あとわっふるとたふぃーもね。
 他は……ええと、煩いってわけではないけれど……騒がしいって言えば可愛く聞こえるかしら? もう兎に角、彼女たちと一緒に居ると私の落ち着いて居られる場所って何処なのかしらってなってくるの。私もう辛くて辛くて……もう少し言うこと、聞いてくれないものかしら……


 「よく頑張っているんだな。俺は君たちとは部隊や管轄が違う故に関わることが少ないから、どうやっても君の助けにはなれない。こうやって君の話を聞いてやることしか、俺にはできない。すまないな」

 そんな、謝らないで頂戴。私だって、こんな話を貴方にするのは申し訳ないと思っているわ。でも貴方、何も言わずにずうっと聞いていてくれるんだもの。それに貴方の作るホットココアが心に沁みて、ついぽろぽろと口をついてしまうの。まるで魔法でもかけられたみたい。


「それは俺のせいなのか?」

 冗談よ。でも貴方のココアが美味しいのは本当。見かけによらず、とはこのことかしら。武道派の貴方がココアを淹れるのが上手だなんて、他に知っている人なんて居ないでしょう? 本当、あの子たちも、貴方みたいに落ち着きと気品を持ってくれればいいのに。私たちの集まりが何のためであるかは十分理解しているつもりだけど、少しぐらい理想を語ったっていいじゃない。


「可愛い子ほど何とやら、なんて言うじゃないか。それにそんなことを言ったって、君はこれからも彼女たちに背を向け続けるんだろう? 勿論、いい意味で」

 見透かしたような彼の言葉にぽかんとなって見上げると、硬い表情を少しだけ崩して微笑まれた。どうやら彼には全部お見通しらしい。
 目を合わせづらくなって逸らした勢いで口につけたココアは、やっぱり甘い。




***
俺得ユニットたち。随分と昔に書いたものを漸くサルベージ修正。

気づいたらどの話もどこかしらで誰かが笑ってた。笑いも涙も様々な感情と共にあると思うと面白いね。



160101
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