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入院着の似合わない男(遊戯王)






ゼアル(凌牙とカイト)
諸々捏造してます



 その病院を尋ねるのは初めてではなかった。初めてでないどころか、自分の方がよっぽど世話になっているとさえ思う。凡そ病院と縁遠そうな、しかし脳裏に浮かぶ色合いのせいか違和感の薄い男のために、凌牙は此処へ来ていた。
 予め教えられていた病室は、階層と番号からして設備の整った個室のようだった。これなら男の自室や医務室とてそう変わらないのではないかと考えたが、大方弟と父親と師匠が此処を勧めたのだろう。あの三人に言われてしまえば、彼とて首を縦に振るしかないのだ。くつくつと笑ってやるが、実際自分も妹に指を立てられたなら有無を言わせてもらえないことを思えば、どっちもどっちのような気がした。
 コンコン、と控えめにノック。数秒の間の後、くぐもった「入っていいぞ」の一言に、遠慮なく扉を開く。真っ白な部屋はいつ見ても気が狂いそうになる。自分のこと、妹のことを思い出して、知らず知らずにしかめっ面になっていたらしい、「迷惑だから扉を閉めてさっさと入れ」と若干怒気を孕んだ声に思案を止め、凌牙は病室へと入った。
 ライトグリーンの入院着はどうにも彼に似合っている気がしなくて、思わず笑いそうになる口を押さえた。そんな凌牙を一瞥したカイトは、元より顰めている眉間の皺を更に濃くしながら開口した。

「俺だってこんなものを着る羽目になるとは思っていないし、お前の気持ちもわかる。だからそう笑ってくれるな」
「あ、ああ…………くっ、」
「……あれ程までにとはいわんが、少しは遊馬を見習え」

 病室に入るなり大丈夫か大丈夫かと泣き喚かれたぞ、と呆れたように話すカイトの表情は、口調と言葉に反して柔らかい。あまり身内以外に心配され慣れていないのが判る、困惑混じりの笑み。お前だってハルトのときはそんなもんだっただろ、とは口が裂けても言えないので、代わりに似合わない入院着をもうひとつ笑い飛ばしてやった。

「ほら、見舞い」
「そこまで重症ではないし、何なら検査入院というだけだぞ」
「貰えるもんは貰っとけよ」

 引き出し式のテーブル下に設置された冷蔵庫にコンビニデザートの入った袋を詰め込む。中身はお茶ぐらいのもので、そこは自分もカイトも対して変わらないのだと何故か安堵した。
 実際、カイトの身体は芳しくないのだ。度重なるフォトンチェンジによる負荷は身体を蝕み、結果一度月で果てた。諸々を経て生命自体は取り戻したものの、全ての機能が十全であるわけではない。目に見えないだけで、少しずつ、けれど確実に、天城カイトは崩れている。

「結果は?」
「変わらん。少し良くなったと言われたが、何がどう良いのかまでは判らない」
「良くなったんなら上々だろ」




まとめる気力が果てたので供養に。着地点が見えて気が向いたらちゃんとまとめるかもしれない。
どうもカイトさんって短命というか、蛍というべきか流星というべきか、一瞬を生きるために輝いてゆるゆると光を失っていくイメージあって自分の解釈に泣きそう。多分本編後多少なりとも身体にガタが来てると思ってる。




2019/05/28


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