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クロノとハイメと眼鏡(VG)





クロハイ
クロノがもやもやむらむら
付き合ってる



「じゃーん!」

 暇な休日、カードキャピタルにも顔を出さないでごろごろしていた俺だったけど、まさかたった今鳴らされたチャイムひとつで平穏が崩れ去るなんて思ってもみなかった。扉の向こうのハイメはいつもとちょっと違うような雰囲気で、いつかの浅草観光よろしく両手に大量の紙袋を持って騒々しく現れた。何でコイツは嵐みたいにやってくるんだ(そういやエースも嵐ってついてたな)と呆れながらも、それを迎え入れる俺も大概なんだろう。というかコイツ、こんな頻繁に日本に来てて大丈夫なのか。完全に隣近所の友達が遊びに来てる感覚なんだが。「これもみあげね」と訂正されないままの言葉と共に紙袋が押しつけられる(訂正するのも面倒だ)。人形焼き、煎餅、きびだんご、アイスモナカ。観光客に人気のお土産グルメが一通り詰め込まれていた。これを地元の人間に土産と称して渡してくるお前がわからないよハイメ。だからって外国のリアクションに困る置き物なんかを買ってこられても困るんだけどさ。

「一人?」
「ミクルさんはそんな頻繁にいねぇよ」
「ちぇー」

 何がちぇーだ、そもそもの話俺とお前がそういう関係なんだから、(俺の伯母さんということは置いといて)仮にも他の奴に気がある素振りすんな。外に出てナンパばっかしててもしょうがねぇなぁで片付けてんだから、せめてこういうときぐらいは隣に居てくれ。考えて、俺はハイメを犬か何かと同列に扱ってるんじゃないかと溜め息を吐く羽目になったが、当の本人は無邪気に土産物のエピソードを語っている。その姿もいつもと変わらないはずなのだが、ふと何か、小さな何かが引っ掛かっている自分が居た。

「ほらクロノ、これ前に一緒に行ったお店の……どしたの?」
「……ああ、うん。いや何でも。お茶出すよ、何がいい?」
「オセンベと人形焼きなら抹茶かなぁ。泡立ててね!」
「ねーよんなもん。緑茶な緑茶」

 俺が熱湯と急須やら湯呑み諸々を準備している間もハイメのお土産話は尽きない。毎度思うけどよく口が回るもんだ。熱い湯呑みをふたつ持って座り、ハイメに差し出したところで、俺はようやく小さな違和感の正体に気付いた。ハイメが眼鏡をかけていた。自分のクランになぞらえたんだろう細い青縁のフレームは何だかんだと似合ってて、知的そうに見える。

「お前、視力悪かったっけ?」
「あ、やっと気付いた? マモルがね、有名人なんだから少しは変身した方がいいんじゃないかって言うからさ」
「変装な……まぁ、確かに」

 ヴァンガードをやってない人たちからしたらちょっとおかしなイケメンなんだろうけど、その道の人たちからしたらそりゃもうトリプルレア物の存在だろうハイメが、活躍の場から離れた日本でとはいえ、今の今まで素顔で自由行動できていた方が不思議な話で。マモルさんの言い分は尤もだ。しかしハイメ、眼鏡ひとつで変装した気になるのはちょっと……。

「似合う?」
「おー」
「適当過ぎだよクロノー」

 くいっと眼鏡の縁を指で持ち上げてアピールしてきたハイメは、俺の生返事に不満そうな顔で口を尖らせて「クロノークロノー」と連呼しだした。正直に言おう、あざとい。イケメンにさらにブーストをかけてる。眼鏡というと身近にかけている人は少ないが、覚えのある限りだとクールなイメージの方が強い。しかしながら俺の眼前で表情をころころ変えるハイメは、どちらかというと茶目っ気があるとか可愛いとか、兎に角ムラッとくる。こいつのせいで何かいけない扉を開いてしまったような気分だ。どっかの雑誌で見た、眼鏡は萌えアイテムだってのは本当らしい。

「反応なしは寂しいよ、折角マモルに選んでもらったのにさ」
「そーか…………は? マモルさん?」
「言い出しっぺは彼だからね、責任取って選んでもらったんだ。なかなかいいセンスでハートに来たよ!」

 ちょっと待ってくれ、どこの世界に他の男から貰ったプレゼントを彼氏に会いに行くのにつけてくる奴が居るんだ。目の前に居たわ。いや、そもそもハイメはそこまで考えてないだろうし、マモルさんも善意でやったんだろう、多分。しかしそうだからって、はいそうですかと俺が納得するのとはまた話が別だ。さっきまで悶々としてたのが一気にもやもやに変わる。いやいや、(推定)無害な人に俺の都合でイライラするのは失礼だろう。でもなぁ、やっぱなぁ。





どうせこのあと二人で変装グッズでも買いに行くでしょ。




2018/11/12


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