1年もつとは思わなかった | ナノ


一年


※ご注意
・時期的にはドラゴンスレイヤー作戦直前あたり
・若干本編と違っているような部分が見受けられたりするかもしれません
・漂うコレジャナイ感




 冷の月も半分を過ぎ、いくらか熱を失った柔らかな日差しが降り注ぐ。この裏庭にいると、今の自分たちがおかれている現状を忘れてしまいそうになる。
「あ、エースさん」
「デュースか」
 彼女の手には、花束。
「隊長……か?」
「はい。少し遅くなってしまいましたが……」
「そうか。僕も一緒に行っても?」
「ええ、もちろん」


 門をくぐって、僕たちの隊長だった人の墓の前に立つ。もう顔さえ、思い出せないのだけれど。
「……もうすぐ、蒼龍への侵攻作戦が始まりますね」
「ああ。朱雀がオリエンスを統一する日も近いだろうな」
「なんだか、序盤の戦況が嘘みたいです」
 そう言って笑ってから、デュースは言いにくそうに切り出した。
「……エースさんは、朱雀が統一を果たしてからの世界を想像したことって、ありますか?」
「統一した後のこと?」
「はい」
「いや……特にないけど」
 想像している暇がなかった、と言ってしまえばそれまでかもしれないが。わたしはうまく想像できないんです、と彼女は言う。
「早くオリエンスを平和に──町の人たちが戦火におびえない、武器を持って争わない……そんな世界にと思って戦ってきたんです。でも、それが叶ってしまったら……いったい何が変わるのかなって」
「確かに僕たちは、長い間この環境の中で生きてきたからな……」
 武器を持っているのが当たり前の世界。一枚のカードを手のひらに載せる。僕をこれまで守ってきてくれたのは、間違いなくこのカードだ。でも、もしこれを使わなくてすむ日が来るとしたら────
「武器を持たなくてもいい世界は、幸せなんでしょうか……?」
「まだ、わからないな」
 武器を手放すことが「死」を意味する、今は。

 風が吹き、足元から花びらをさらっていく。なんとなく、その行方を目で追った。
「あ、こんなとこにいた! 探したわよー!?」
「二人とも、モグりんから招集かかってるよ〜?」
「ああ、今行くよ」
 迎えに来たケイトとシンクに手を振って答える。
「……あの」
「ん?」
「もし、全てが終わって、世界が平和になっても……」
 そこで、デュースは口を閉じた。その続きを言ってもいいのか迷うように、彼女の視線が動く。
「大丈夫、僕はずっとデュースのそばにいるよ」
「エースさん……」
「さあ、急がないと」
 また怒られるのはごめんだからな、と笑う。彼女の表情が明るくなったのを見て、手を差し伸べる。
「行こう」
「はい!」
 願わくば、最期までこの手を離さないでいられますように────




あとがき
題名だけ一周年記念、みたいな。ひっさびさのA2
です。本編を見ている限りは、彼らにそんな憂いは
なかったとは思うのですが、す、少しくらいはいい
かなって……。でも、実際に全土を統一した後の
ことを、魔導院の人間はどう考えていたのでしょう?
本編ではあんなことになってしまいましたが……
ほとんどの人間が平和に暮らせる世の中が来ると
信じていたのでしょうか……ちょっと気になります。



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