シリアスなんてなかった | ナノ


雨の日のお話


※ご注意
・安定のコレジャナイ感
・ところどころ、本編とは違った部分が見受けられるかもしれません
・時系列的に言うと、たぶん4章前あたりになると思われます




 朝から雲行きの怪しい日だった。

「……んー」
 昼寝から目を覚ますと、雨が降ってきていた。もちろん傘など持っているはずがない。小雨だからすぐに室内に入る必要もないだろう、寝起きで働かない頭のままぼーっとしていると雨は予想以上の速さでひどくなっていく。
「まずい……っ」
 これ以上濡れてしまう前にと扉へ急ぐ。その間に、僕の耳は雨音の中に響いた金属の音を拾う。裏庭の中でそんな音がするものといえば、墓地へ続く門しか思い当たらない。振り返れば、見慣れた人影が立っていた。
「マキナ?」
 この雨なのに、あわてることも室内へと移動しようとすることもなく、うつむいて門を閉じた姿勢のままで止まっている。どうしたんだ、早く教室に戻ろう、風邪を引くぞ、墓地なんかで何をしていたんだ────思いついた言葉は、音にはならなかった。表情は見えないはずなのに、泣いているのではないかと錯覚するような、そんな雰囲気が声をかけることをためらわせる。きっと、丸まった背と雨に濡れたせいでいつもより元気のない髪が、そう思わせているだけなのだろうけれど。やむどころか、いまだに激しさを増す雨で、気づけば僕もマキナもびしょ濡れだ。少し迷って、そっと彼の元に歩み寄り、何も言わずに抱きしめた。
「誰──」
「僕だ」
 警戒のせいか、幾分厳しさを含んだ声をさえぎる。
「……エース、いたのか」
「ああ。珍しいな、墓地に行く人間なんてめったに見ないのに」
「なんとなく、兄さんのことが気になってさ」
 ……ああ、しまったと思ったところで、もう遅い。あまりに無神経な言葉を投げた自分が忌まわしい。
「そうか……ごめん」
「どうして謝るんだよ、気にしてないって。そんなことより、エースこそどうしたんだ?」
「そこのベンチで寝ていたら、雨が降ってきたんだ。だから教室に戻ろうとしたところで、マキナが出てきたんだ」
「放っておいてくれてよかったのに……どうして、こんなことしてるんだ?」
 そういう声は、そこか自嘲の色を帯びていた。あんな姿を見て、放っておけるわけなんかないに決まっている。
「……なんとなく、そう、僕もなんとなくだよ」
 あの時、何と言えばいいのかわからなくて、何も声をかけられなかった。彼の不安を取り除けるのは、僕ではなくて他の誰かなのかもしれない。それでも、マキナが悲しそうにしているのを見たくなかった。ただ、それだけだ。
「変なやつ」
「とにかく、早く中に入ろう。このままじゃ風邪を引いてしまうかもしれないし」
 体を離せば、すっと彼は振り返る。
「ありがとうな、エース」
 そう言ってマキナは微笑む。さっきと打って変わって、ひどく穏やかなその様子に僕も安心して、笑った。

 雨は、いつの間にかやんでいた。




あとがき
これまたついったー上でネタをいただいて書いた作品。
しかし、ネタ自体はもっとほのぼのした雰囲気だったはず
なのに、気づいたらこんな展開に……普段はほのぼのしか
書けないはずなのに、どうしてこうなった。



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