私は風邪を引いても一人ですが | ナノ


風邪をひいたお話


※ご注意
・そろそろ安定したかと見せかけてのコレジャナイ感
・ところどころ、本編とは違った部分が見受けられるかもしれません。
・たぶんこの子達は寮生活だと思う、という考えから来る捏造
・少女マンガじみた甘ったるさかもしれませんので、ご注意ください
・お部屋の構造は……皆様の想像力にお任せします……orz




「ん、うー……」
 目が覚めたので時計を見ると、起床予定の時間を2時間近く過ぎていました。
「あれ……今日って作戦があったんじゃ……」
 なんだか頭がうまく働きません。
「……」
 どうにも起きだす気にはなれず、寝返りを打ってからわたしはもう一度目を閉じました。


 どれくらいたったでしょう。ふと目をあけると、扉をたたく音がかすかに聞こえました。いつもより重い体を引きずるようにして、訪問者を迎えるために扉の前へと向かいます。扉を開くと、そこには予想外の人物がいました。
「エースさん? どうしてここに──」
「デュースこそ、どうしたんだ? 普段は無断でブリーフィングを抜けるようなことはしないのに……」
 そこまで言ってから、エースさんは怪訝そうな顔をしてわたしの方をじっと見ます。
「あの……わたしの顔に何か?」
 答える代わりに、彼はわたしの額にすっと手を当てました。
「ひゃわっ。あれ、エースさんの手って冷たいんですね、気持ちいいです……」
「何言ってるんだ、すごい熱じゃないか!」
「あ、だから今日は目が覚めたときに違和感が」
「いいから、早く戻れ!」
 でも、そう言われても体が思うように動いてくれません。自分が風邪を引いたのだと自覚してから、よりいっそう重さが増したような気さえします。じりじりと進んでいると、急に地面から足が浮きました。
「えっ、あの、エースさん!?」
「こっちのほうが早いだろ」
 さっきの様子を見て痺れを切らしたのか、エースさんはわたしを抱きかかえて移動することにしたようです。そのままベッドまで運ばれ、すっかり寝かしつけられてしまいました。仕方がなかったとはいえ、いきなりあんなことになるなんて……心臓に悪いです。おかげで、しばらくまともに彼の顔を見れそうにもありません。さりげなく、シーツを顔の高さまで引き上げます。
「朝から何か食べたか?」
「いえ、さっき起きたばかりなので何も……」
「食欲は?」
「んーと……あんまりない、です」
「わかった、一応軽く食べられそうなものを買ってきておくよ」
「そんな、大丈夫ですよ!」
「ちゃんと食べなきゃ、治るものも治らないだろ」
 おとなしく寝てろよ、とシーツからはみ出したわたしの頭を軽くたたいて、エースさんは買出しに行ってしまいました。
「はうぅ……」
 横にいるぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、気持ちを落ち着けようとしてみますが、うまくいきません。
「何で、こうなったんでしょう」
 立て続けにおきていることを、頭では理解できてもうまく飲み込むことができません。
「……どうして、エースさんはわたしのためにこんなにしてくれるのでしょうか」
 彼のことを好きだというこの気持ちは、誰にも内緒のはずです。もしかすると、向こうも同じようにわたしのことを想っていてくれるのでは……と考えるのも、いくらなんでもうぬぼれが過ぎるというものでしょう。
「じゃあ、どうして────」
「ただいま」
「あ、おかえりなさいです」
「ただいま、はおかしいか。僕の部屋じゃないのにな」
「すみません、後でお金払いますね」
「いいよ、デュースが元気になってくれたらそれで」
 食欲が戻ったらちゃんと食べるんだぞ、と彼は枕元に袋を置いてくれました。その些細な優しさはうれしいはずなのに、今は素直に喜ぶことができません。さっきの疑問を解決するためには、やはり本人に直接聞くしかないのでしょうか……。少し迷って、口を開きます。
「あの、ところで今日って作戦がありましたよね。エースさんは、どうして残っているんですか?」
「僕だけじゃない、後二人残っている。もともと出撃する人数が決まっている作戦だったんだ。抜けたことは心配しなくてもいい」
「そうだったんですか……」
 ほんの少し期待した自分が、ひどく馬鹿みたいに思えてきました。でも、もしわざと作戦のメンバーから外れてここに来てくれていたとしても、恋愛感情以外の理由なんて他にあるのでしょうか……。しばらく考えて、わたしはひとつの結論にたどり着きました。
「わたしが、妹だから……」
「妹?」
「えっ、どうしてわたしの考えていることを──!?」
「どうしてって……デュースが言ったんじゃないか」
 うっかり、口に出してしまったのでしょうか……わたしったら、なんてことを。
「あの、それは、聞かなかったことに」
「どうして勝手に決めるんだ?」
「へ?」
 さっきまでのやわらかい笑顔とは違い、真剣な表情でエースさんはこちらを見つめてきます。その視線に耐えられなくて、頭までシーツをかぶってしまいたくなります。顔は赤くなったりしていないでしょうか。でも今なら、熱のせいで気づかれないかもしれません、なんてくだらないことを考えていると、エースさんはようやく口を開きました。
「もちろんそれもそうだけど……それだけじゃないんだ。僕はデュースのこと────」
 そこまで一気に言ってから、彼は何かに気づいたように口をつぐみました。
「わたしが……どうかしたんですか?」
「……なんでもない」
「ええ!?」
「なんでもないんだ、忘れてくれ!」
「そ、そんな」
「早く寝ろ!」
 そう言って、乱暴にシーツを頭にかぶせられてしまいました。私もなんだか気恥ずかしくて、そのまま彼に尋ねます。
「あの……エースさん」
「……なんだ」
「さっきのは、聞かなかったことにしたほうがいいんでしょうか……?」
「……」
 返事はありませんでした。表情が見えないので、この間が照れなのか、後悔なのか、それ以外の何かなのかはわかりません。
「……じゃあ、わたし寝ますね。今日は、いろいろありがとうございました」
「気にするな」
「おやすみなさい、エースさん」
「ああ、おやすみ」
 見送る代わりに控えめな扉の閉まる音を聞き届けてから、もう一度ぬいぐるみを抱きしめます。
「すぐに治ってしまいそうですね」
 風邪のせいでつらかったはずの体の重さも、感じないくらいです。そう思えるほどに、今は幸せな気持ちでいっぱいでした。




あとがき
ついったー上で「おやすみ会話をするA2ちゃんはどこですか」という
フォロワーさんのつぶやきに便乗したら、なぜか私も書くことになって
しまったためにできた作品。しかし、おやすみ要素はどこでどう間違えたのか
「風邪を引いた話」に摩り替わってしまっていたのでした。



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