サクラ | ナノ




俺はスーパーからの帰り道に、昼休みに勘ちゃんから言われたことを思い出していた。


「…ねぇ、兵助。」
「…なに、勘ちゃん。」
「その子に帰りも会いに行ってみたらどうかな?」
「…なんで」
「なんでって…、せっかくの出会いなんだし。」
「帰りに彼女がそこにいるとは限らないだろ。…今日スーパー寄る予定だし。」
「なら、その後でいいから行ってみなよ!」
「なんでそんなに彼女と会わせようとするんだ、勘ちゃんは。」
「なんでって…なんか俺、兵助とその子っていうか彼女は会うべきして会ったと思うんだ。自信とかはないよー。なんかそんな気がするんだ。」

と勘ちゃんは笑顔で言っていた。

別に彼女が気になってるわけじゃない。だからと言って、勘ちゃんが言ったからとかじゃない。
なんでかわかんないけど、

(行かなくちゃはいけない…そんな気がする。)

俺の足は自然と今日の朝、彼女と出会った桜の木に向かっていた。
自分がなんでこんな気持ちになるかはわからないし、何故行かなくてはいけないのかもわからない。ただ、自分のどこか奥でそうしろって言ってる自分がいる…そんな感じだ。


そんなことを考えているうちに、彼女と会った場所にたどり着いたが、そこには彼女の姿は見あたらなかった。

(…やっぱりいないじゃないか。)

そう思い、家に帰ろうと足を動かしたとき

「あれ、あなたは…。」
「え、」

振り返ったら、朝のときと同じように少し離れたところ彼女は立っていた。

「また見に来てくれたんですね!」
「えっと…その、」

彼女は嬉しそうに俺のところまで来て、俺の手を取りぶんぶん振った。少し痛い。

「夜の桜も綺麗なんですよ!なんせ夜桜って言葉があるくらいですし!…って、まだ桜は咲いていませんでしたね。あ、でも蕾も綺麗なので見ていってください!」
「あー、はい…。」

俺は息継ぎなしでそう言う彼女に、内心びっくりしていた。

(本当に変わってる子だな…)

そんなことを思っていると、彼女は気がついたように、謝罪を言った。

「あ、いきなりこんなに話してしまってすみません!なんか話す隙間も与えずに…。」
「あ、いえ。気にしないでください。…でも、手を離して頂けませんか?」

俺がそう言うと、彼女は自分が俺の手を取っていたことに気づいてなかったようで、すぐさま彼女は手を離してくれた。痛かったな。

「す、すみません!私ったら、知らない間に手を取っていたようで…嫌でしたよね。…ごめんなさい。」
「大丈夫ですよ。別に嫌だったわけじゃありませんから。」
(痛かっただけだし…)

それを聞いた彼女は俯いていた顔を上げ、すごく嬉しそうな笑顔になった。
その顔を見た瞬間、胸の中が熱くなったような気がした。

(…あれ、なんだろこれ。胸がなんかおかしい…。)

「あなたはお優しい人ですね。…あ、お名前を聞いてもよろしいでしょうか!?」

名前を聞いてもいいかと聞かれたとき、いつもなら面倒くさくて断ってきた。特に相手が女子の場合は。…でも、なぜか彼女には教えてもいいかなという気になっていた。普段ならそんなことを思わない俺が。

「…いいですよ。俺、久々知兵助といいます。」
「わ、私は名字名前と申します!…久々知さん、よろしくお願いします。」
「こちらこそ、名字さんよろしくお願いします。」


彼女と近づいた夕方


(それにしても何がよろしくなんだろ…?)



久々知の口調がわからなくなる!!






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