ピピピと無機質な音が部屋に鳴り響いた。
「…もう、朝か。」
俺はベッドの脇にあった目覚ましを止め、洗面所へ向かった。
いつもと変わらない毎日。それはそれでよかったし、豆腐があれば俺はそれで生きていけた。ハチみたいに好奇心が大勢なわけでもなく、だからといって雷蔵みたいに本を漁り読みふけっているわけでもない。たぶんあの5人の中で一番まともだと思う。みんなにそのことを言うと、一番まともじゃないのはお前だと言われる。雷蔵にさえ、苦笑いしながら言われた。どうみても普通じゃないか。まぁ、多少見た目は良いみたいでよく告白されたりしたけど、それはあの5人にも言えることだし、何しろ一番モテてるのは三郎か勘ちゃんだと思う。
「…そろそろ行くか。」
物思いにふけっていたら、学校に行くいつもの時間になっていた。
俺は誰もいない部屋に行ってきますと挨拶をしてから、鍵を閉めてマンションを出た。
「もう、こんな季節か…。」
ちょうど目の前にあった桜の木はすっかり蕾がついていた。
その木を見て、またハチが毎年のように、咲いてるかわからないのに桜を見に行こうと言いだす季節だなと思った。
(学校が始まる時間までだいぶあるし、ちょっと見に行くだけでも行くか。)
咲いてるかどうか確認がてらに行くのもいいかと思い、俺はいつもみんなで見に行く桜の木がある公園に足を向けた。
「ここはいつも静かだな…。」
俺たちが毎年見にくる桜の木は穴場だったりする。花見の時期になっても、人はあんまり来ないし、俺たちが花見をするときは大抵貸切だったりする。だから、ここの桜の木に来るんだけど。
「やっぱりまだ咲いてないか…。」
ハチに伝えなきゃなとそう思ったとき、
「…ここの桜の木に何かご用ですか?」
「え」
いきなり声をかけてきたのは俺と年が変わらないぐらいの女子だった。
(いつの間に後ろにいたんだ…。声かけられるまで気づかなかった。…気配とか感じるのけっこう自信あったんだけどな。)
「…いえ、咲いてるかどうか見に来ただけです。」
「あ、そうですか!」
(…なんか嬉しそうだな。)
「…あともう少しです。」
「え…何がですか?」
「桜が咲くのですよ。…あともう少しで咲き始めます。」
彼女はこの桜の木がいつ咲くかを知っているかのように言った。
「…分かるんですか?」
「はい、わかります!」
彼女は嬉しそうに笑った。
(…変わった人だな。)
「…そろそろ行かないと遅刻しちゃいますよ。」
「え」
そう言われて、携帯の時計を見たらHRが始まるまで、あと5分ぐらいしかなかった。
「やば…!」
「気をつけてくださいね。」
「あ、はい。」
俺は彼女に返事をして、走って学校に向かった。
正直いって、彼女にした返事は素っ気なかったが彼女は笑顔で手を振ってくれていた。
(久しぶりに人に見送られた気がする…。)
そう思いながら、学校に向かった。
「珍しいねー、兵助が遅刻寸前にくるなんて。」
「俺だって、遅刻しそうなことはある。」
走ったおかげか、遅刻にはならなくて済んだが、クラスに入ったときのみんなの顔が呆然としてたのを覚えてる。そんなに俺が遅刻しそうになることが珍しいか。
「何かあったの?」
「ちょっと桜見に行ってた。」
「へぇー、珍しい。ハチに影響でもされた?」
「違う。ハチに連れて行かれる前に咲いてるかどうか確かめてきた。」
「あぁ、そうゆうこと。…あれ、でも見てくるだけなら遅刻寸前に学校には来ないんじゃない?」
(勘ちゃんはやっぱり鋭いな…)
「…ちょっとあって。」
「そのちょっとが気になるんだよー、兵助」
勘ちゃんがニヤニヤしながら、聞いてきた。こういうときの勘ちゃんは意外にしつこかったりする。本当に聞いてほしくないことは聞いてこないが。この状態は言わなくては離してはくれない。つまり、話さざるおえないのだ。
「…女子と話してた。」
一つ溜め息を吐いてからそう言うと、勘ちゃんは元々大きい目をもっと大きく開けた。
「…兵助が?」
「…あぁ。」
「今日は赤飯だ!みんなに伝えなくちゃ!」
「あ、おい!勘ちゃん!」
俺の停止の声すら無視し、雷蔵たちがいるクラスに走っていってしまった。
絶対からかわれるなと桜の甘い香りを感じながら、そう思った。
そんな春の日の出会い(兵助ぇぇぇー!!)
(騒がしいのがきた…)
(明日は槍が降るな)
(どういうことだ、三郎)
名前変換が全然なくてごめんなさい!