夏が来た。



暗く静かなこの宵闇の森とはいえ、木々の隙間からサンサンと降り注いでくる太陽の熱がとても暑苦しい。
直射日光に当たらないよう気を付けながら古井戸にもたれかかり、日焼けという単語と無縁な真っ白い自分の素肌を見つめてため息をついた。


「グーテンターク、今日も暑いね」

暑さで不機嫌になりかけている時に彼は現れた。
高い気温にも関わらずトレードマークの青いケープを身に纏っている彼、王子は一応自分の恋人だ。
整った容姿、甘く優しい声音の持ち主である王子が何故自分を恋人に選んだのかはイマイチ分からないが…


「相変わらずメルは素敵だね、惚れ直すくらいだよ」

「そんなこと言われても嬉しくないよ…」

「素直じゃないね、僕のお姫様は」

サラリと流しながら隣に座ってきた王子を横目で見つめる。
爽やかな笑みを浮かべているがさすがに暑いらしく、額にうっすら汗を浮かべている。
いつもと変わらない状況で会話をしているはずなのに、どこかいつもと違うような違和感を感じていた。


「王子…手、繋がないのかい……?」

普段なら真っ先に繋がれているはずの、空いたままの右手を見つめる。
あまりベタベタくっつくのは好きじゃないが、手を繋いで寄り添うことは好きだ。
普段素直になれないくせに、空いた右手を見つめて心のどこかで寂しいと感じる自分自身が憎たらしかった。


「あぁ、今日は手汗をかいてるし、やめておくよ」

「…………」

「それに、メルはそのほうが嬉しいんじゃな「ばかっ」

べらべらと癇に障ることを喋る王子を無視して手を握る。
そのまま力を入れて勢いに任せて強く抱きついた。


「王子の汗なら、いいから…その、いつものように……」

恥ずかしさで真っ赤になった顔を隠しながら、馬鹿みたいに目を丸くして見つめてくる王子に消え入りそうな声で告げた。
抱きついて密着しているため、間近に感じる王子の匂いと体温にクラクラする。
恥ずかしくて死にそうだ、いや、もう死んでるけど…


「メルから抱きついてくれるなんて、夏の暑さも捨てたもんじゃないね」

「ば、ばか!調子に乗るなっ」

嬉しそうに微笑みかけてくる王子の表情は夏の日差しよりも眩しい。
しっかり繋いだ手はしっとり汗ばんでいる。
こうして手を繋いでいられるなら、あなたの汗なら構わないと思った。





(「メルに抱きつかれたら元気になっちゃったじゃないか」)

(「体調悪かったのかい?元気になってなにより…」)

(「体調じゃなくてロンギヌスさ!」)

(「…………」)












しっとり汗ばむ肌が魅力的なry


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