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殺される。そう思ったのは生まれて初めてだった。もう作りものの笑顔ですら私を見なくなった彼は、ついに今日私を不本意にも突き飛ばし、そのままスイッチが入ったかのように数回殴ってきた。その手は商売道具のはず。大切なもののはず。そう思えば思うほどに少し、悲しくて苦しくて…ちがう。幸村の悲しみと苦しみが伝わってきて、私はただひたすらに殴られていた。それで気がすむならよかったのだ。なんでもよかった。怒りの対象としてでも、彼の瞳には今私が映っている。私しか映っていない。そんなのは生まれて初めてだったから。


「あー…痛い」


彼がいなくなって数十分は此処で朦朧としていた。だんだんと鈍っていた痛覚が戻ってきて、ただただ痛くて、血が見えた、流れているのか、飛び散ったのか。なんとなく朦朧とした意識の中で、私は以前の柳の言葉を思い出す。何かあったら言えと、確かに彼は言ったように記憶していた。さすがにこの状況はまずい。このまま死ぬなんてことはあり得ないと思うが、幸村が帰ってきたところで私を気にかけることなんかないだろうから、私が一人でどうにかしなければいけない。とにかく家を出よう。こんな恰好でか。まあ上に着込めばわかるまい。誰かに会いたい。誰かの声が聞きたかった。でないと生きているかどうかよくわからない。わたしにはもうわからない。クラクラする。頭が揺れる。

みんなで行ったファミレスで待ち合わせた。適当に話があるとか書いてメールを送れば、近くにいるから数分でつくと言う。もしかしたら行ったらもう待っているかもしれない。私はおぼつかない足取りでジャージのまますっぴんのまま歩き出す。取り合えすコートにストール。頭の傷はさすがにあれだったので、適当にマキロンでもして血が止まるのを待った。


「あ、え、真田も、いる…」
「都合が悪かったか?」
「いや…うん。悪かったかもしれない」
「?」
「うむ。席を外した方がよいか?」
「いや、いいよ。うん」
「…そうして見ると高校の時を思い出すな」
「このジャージ、高校の時のだもんね」


ファミレスの前で計ったかのように鉢合わせた。三人で入る。ポケットに財布と携帯だけ入れて出てきたから、私は両手をポケットにつっこんでいて、真田に危ないぞと言われて笑う。確かに今は、危ないかもしれない。無事に席について、二人と向き合うと、で、話とはなんだと直球でくる。いや、むしろ直球じゃない。先ほどから柳のこちらを見る目が少し怒っている気がするのだ。きっと、きっと気付いていてわかっていて聞いているのだ。頭をぽりぽりかけば、まだ真っ赤な塊がぽろぽろと零れた。


「額の傷もだが、おそらく身体にも数か所あるんじゃないか?」
「話が早すぎて切なくなるよ」
「どういうことだ。けがをしたのか」
「そうだろうな。おそらく、幸村に殴られたのだろう?」


真田が目を見開いたのがわかる。

「あたし…どうしよう」

少し、嬉しかったなんて。




2011   どうかしている
20140405 書き換え

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