少し先を行くラビが振り返った。
「ライ、ダイジョブか?」
『まだ頭痛くてたまに立ちくらみするけど、なんとか』
「まだまだ安静にしてなきゃダメだな……こっから階段だから、気をつけろよ」
『ん、ありがとう』
トン、トン、とゆっくり階段を降りる。
先を行くラビはもう下に着いていて、上方を振り返ってライを見守っている。
『……心配性かよ…』
「病人は黙って見守られてなサイ」
『……地獄耳』
「あのなぁ、心配して、……!」
突然、ライの視界が、ぐら、と揺れる。
足がもつれた。
踏ん張ろうとした片足の先に地面は無く、嫌な浮遊感と共にライの体が前方に傾いた。
『わ…っ』
「ライ!」
下まで高さ2m程はあっただろうか。
浮遊感のすぐ後に、衝撃と、ドサリと鈍い音がした。
『っ……あれ…?』
階段から落ちたはずなのにそれほど痛みが無い。
いつの間にかキツく瞑っていた目をゆっくりと開けた。
「ってぇ……ライ、大丈夫さ!?」
『え、』
すぐ近くから聞こえた声にライが頭を持ち上げると、
『ラビ…!?』
心配そうなラビの顔が目の前にあった。
『オレ落ちたんじゃ…?あれ?』
「ちゃんと見てたからこうして受け止められたんさ!だから言ったろ、気をつけろって!」
『ス、スイマセン…アリガトウゴザイマシタ…』
床に横たわるラビの上に乗るような形でいるライは、すぐに離れようと手を着いて体を持ち上げようとした。
が、それはラビに抱きしめられることによって阻止されてしまった。
思ったより広い胸に顔を押し付けられる。
『ぅぷ、くるし、』
「よかったさ…」
『へ…?』
「頼むからあんまり心配かけさせんな…」
『…う、……ごめん、ラビ』
沈黙のまま、時間が流れていく。
『…………あの、ラビ?』
「…………(やべェ、勢い余ってつい抱きしめちまったけどこっからどうしたらいいんさ…!?てかライメッチャ柔らかいしいい匂いするんですけど!!)」
『…ラビさん?』
「…………(なんか今更恥ずかしくて動けねェ…しかもこの体制って色々マズいんじゃ…!?あああああどうしたらいいんさあああああ!!!)」
『あの、そろそろ首が痛い……というか苦しい……』
「…………(ちょ、アレン助けて!!!この際ユウでもいいから誰か助けてぇぇぇ!!!)」
『ラビ?…ねぇラビ?ちょ、どこか頭でも打った!?ラビーーー!!!』
「ふぁい!?」
ビクッと動いた時に緩んだ手からするりと抜け出したライは、ラビの横にぺたりと座ってその顔を覗き込んだ。
『ラビ大丈夫!?頭打った!?ごめんオレのせいで……って顔赤くなってんじゃん!!え、熱!?え、なんで!?』
あたふたするライに、ラビは自身の腕で赤く染った顔を覆った。
ひんやりとした自分の腕が気持ちいい。
「な、なんでもないさ…」
『何でもなくないだろ!オレの風邪が移ったのかな、どうしよ、ラビ、大丈夫…?』
「だいじょばないけどだいじょーぶ…」
なんだそれ!?と突っ込むライへ、ラビはハハ…と乾いた笑みを返した。