コムイさんに呼ばれた、ある日のこと。
「ライちゃん、紹介するよ」
ソイツは、突然オレの前に現れた。
「お前がライか」
『……えっと…?』
無造作に散らばる燃えるような赤く長い髪。
顔の半分を仮面で覆った、どことなく色気の漂う長身の男だった。
「クロス・マリアンだ」
彼はそう名乗ってニヒルな笑みを浮かべた。
『(かっこいい人だ…)』
と、思ったのもつかの間。
彼は屈みながらずいっと顔を近づけると、オレの顎に片手を添えて上を向かせた。
所謂、顎クイ、というやつだ。
『!!?』
「なあああああ!?」
「……フッ」
こんな経験があるはずもないオレは、突然のイケメンのどアップに当たり前のごとく硬直してしまう。
クロスと名乗った男は、オレよりも慌ててるんじゃないかという勢いのコムイを無視して、なんとも満足気な表情を浮かべた。
「お前、将来きっといい女になるな」
『は、え、…ひぇ!?』
「元帥いいいい!!?」
『うわぉっ!?』
あろうことか、彼はそのままオレの頬へ唇を落とし、反射的に悲鳴を上げたオレをコムイさんが横からかっさらっていく。
一瞬の出来事に頭が真っ白になりながらも、オレはコムイさんの後ろへと隠された。
「元帥!!まだ二桁になったばかりなんですよ!!」
「何歳でも女は女だろうが。それに、あんなのただの挨拶だろう」
『…………』
ぽかーんとしているオレを他所に、二人は言葉を交わす。
といってもコムイさんが一方的に吠え、彼はへらりとそれを交わしているだけだったが。
「全く、貴方って人は………ライちゃん、この人はクロス・マリアン元帥。これでも、これでも!一応元帥だよ」
「なんだその言い方…」
『元帥…』
元帥という存在は聞かされてはいたものの、思ってたよりも人間らしくて安心したような覚えがある。
「…ライちゃん。実は、クロス元帥がね、ライちゃんの御両親を教団に連れ帰ってくれた人なんだ」
オレの頭を撫でながら、コムイさんは優しくそう言った。
あの時両親の仇を打ち、二人の亡骸をここに連れ帰って来てくれた人がいることは、コムイさんから聞いて知っていた。
いつか会ってお礼が言いたかった。
そうか、この人が…
『…クロス元帥』
「ああん?」
『二人のために戦ってくれて、二人を教団に連れてきてくれて、ありがとうございました』
今の自分にはこれしか出来ないのが悔やまれるが、感謝の意を込めて深々と頭を下げた。
「……ただの気まぐれだ」
そう言ったクロス元帥は、先程のコムイさんのようにオレの頭にぽん、と手を置いた。
乱暴だが優しさが含まれるそれに、少しだけ、視界が滲んでぼやけた。
* * *
『…という、クロス元帥との出会いでした』
「あの人、女性には優しいですからね……」
遠い目をするアレンに、そこにいる全員が同情の目を向ける。
『それからあの人、たまーに教団に来ると絶対オレんとこに来て何かしらセクハラをするんだよ…。それがなけりゃ普通にかっこよくていい人なんだけどなあ…』
無駄にイケメンだから心がもたない、とライはぼやく。
「私は大体兄さんの所にいるから、兄さんが意地でも合わせようとしないんだけど……ライは色んなところに行くから…」
いい人なんだけどね、と付け足しながらリナリーが困ったように笑った。
『ちなみに、ティムとの出会いもその時。最初はまぁ、あの映像のもあって近寄りがたかったんだけど、ティムに悪気はないのはもちろん分かってたし、普通に可愛いからすぐ仲良くなった』
いつの間にいたのか、ライのすぐ側でぱたぱたと飛ぶティムとじゃれながら、ライは、ねー、とティムに言う。
ティムはくるりと旋回し、ライの頭に止まった。
『アレンはここに来る前、クロス元帥と一緒だったんだろ?その辺の話も聞かせてよー』
「……いい、ですけど……思い出すだけで吐き気が……」
『ま、まぁ無理しない程度に…』
そして、アレンのクロスとの長い修行時代の話に、その場全員が青い顔をするのは数分後のこと。