AnotherColor | ナノ


隠しきれない青筋を立てながらも黙々とライを乗せて歩く神田の後ろを、ニヤニヤと面白そうな笑みを浮かべたアレンとラビ、そしてそれらをまとめて微笑ましそうに眺めるリナリーが続く。


「「(フフフ…一生見れない光景だろうなこれ)」」
「(アイツら覚えとけよ)おいコラライ、髪イジんな」
『いいじゃん、サラサラで触り心地いいんだもん』
「クソ…!」


振り落とそうにも振り落とせないモヤモヤを盛大な舌打ちへと変える神田。
そんな神田をスルーして、ライの手の中で神田のトレードマークでもあるポニーテールが形を変えていく。


『できた』


言葉と共に右手を緩く持ち上げて、後ろの三人に見えるように反対側に少し体を逸らしたライ。


「「ブッ…!!」」


突然アレンとラビが吹き出したかと思えば、ライの手には見事に三つ編みにされた神田の髪が解けないように握られていた。


「テメェらは…後でシメる…っ」


面白おかしさでプルプルと震えるアレンとラビを、前を向いたまま歩く神田からの凄まじい殺意の篭ったオーラが襲い、二人は同時にひぃっと肩を揺らしたのだった。



* * *



「「「「(見ちゃいけないモノを見た気がする……)」」」」


そのまま科学班室へ着けば、まず全員の視線を奪ったのはもちろんライ…というより、その下の不機嫌オーラ全開の神田だった。
と言っても、あとが怖い科学班員達の視線はコンマ数秒で逸らされることになったが。


「…早く降りろ」
『はーい』


緩い返事と共に後ろに傾いた体は宙で半回転し、綺麗に着地を決める。
…と、誰かが知らせたのか、奥からコムイがパタパタとやって来た。


「ライちゃんお待たせ!!」
『や、こっちはこっちで楽しかったから。むしろ仕事忙しいのにありがとう』


はいコレ、と言ってコムイから差し出されたものは、コムミンDXと同じような錠剤と水差しだった。
対象が対象なため試験は出来ていないが絶対大丈夫だ、というコムイを信じてそれを受け取った。


「ところでライちゃん、相談があるんだけど…」
『ん?何コムイさん』
「戻る前に写真撮っても…」
「兄さん?」


リナリーに微笑まれ、スミマセン、とすごすご引っ込むコムイに苦笑しつつも、錠剤を口へと運ぶ。


「ストップ」
『?』


しかしそれは突然ラビによって止められてしまった。
何かと思って見上げれば、何かを考えている様子。


「ライ、その格好のまま戻って大丈夫なんか?」
「あ」
『……確かに…?』
「そうね…」


リナリーのお下がりである服や靴は今のライにはぴったりではあるが、元に戻ったとなるとどう考えても小さい。
どうしようかと考えていれば、スっと差し出されたのは真新しい白衣だった。


「これで良ければ使うか?」
『リーバーさん!』


お礼を言いながら受け取るライに、予備はいくらでもあると笑うリーバー。


『これと、これと……よしっ、こんなもんか?』


靴、ストッキング、そして前を留めた白衣の中で器用にワンピースを脱いだライの頭が、ぶかぶかの白衣の襟元からひょこりと出てくる。
長い袖から両手を出し、最後に髪飾りを外してから、改めてコムイから薬と水差しを受け取ったライの喉がごくりと鳴った。


「ホントに大丈夫よね?兄さん…」
「大丈夫!ボクを信じて!」
『じゃあ……いただきます…?』


周りが固唾を飲んで見守る中、ライの口に錠剤が消える。
ごくっ、とライの喉が動いた。


「…どう?」
『う、ん…?なんとも……』


そこまでライが言いかけた時、


シュゥゥウウウ……


『ぅ…っ』
「!」
「えっ…え!?」
「体から煙出てんぞ!?」
「だ、大丈夫なの兄さん!?」
「落ち着け!ライが小さくなった時と同じだ」


段々と煙にまかれていくライの体がふらりと傾く。
その小さな体へリーバーが片手を伸ばすのと同時に、二人の姿は完全に煙に包まれてしまった。


「ど、どうなってるんさ…」
「お願い、無事でいて…!」
「ライ!大丈夫ですか!」


ハラハラと見守る一同の前で、段々と煙が晴れていく。
目をこらすと、いつも通りの背丈に戻ったであろうライが静かに目を閉じたままリーバーに抱えられていた、のだが。


「戻った、のか…?」
「……髪、以外は戻ったんじゃね?」


ラビの言う通り、普段と変わらないライの姿に戻ったには戻ったのだが、リナリーによって結ばれた髪はそのままの形をキープしていたのだ。


『…っ…ん……?』


ライの口から小さく息が漏れ、口々に名前を呼ばれれば、ゆるりと揺れるまつ毛。


「ライ、気分はどうだ」
『……体が重い』
「ま、元気そうだな。立てるか?」


リーバーに手を引かれて立ち上がったライが緩く頭を振れば、両サイドでふわりと揺れる髪。
は?とライが固まった。
そして自分を見下ろし、元の姿に戻っているのを確認すれば、その手でサイドに流れる髪をすくう。


『…なんで髪だけそのまんまなの?』
「ライ!!」
『わわっ、リナリー?』


よかった、と安心した様子のリナリーにぎゅうぎゅう抱きつかれ、心配かけてごめんね、と困ったように笑うライ。
その傍ら…


「髪が長いライ、新鮮ですね…!」
「大分印象変わるな……ってかやっぱメッチャ可愛くね??」
「………」(←ガン見)
「(フフフン、今日のこと今度バクちゃんに自慢しよーっと)」


そんなこんなで、この日限りの大(?)騒動は幕を閉じたのだった。






(ユウ!見て見て)
(あ?……お前、それ、)
(折角だから切る前にお揃いにしてみた)
(……そうかよ)
(てことで一緒に三つ編みどう?)
(っ誰がやるか!!)


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