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それからなんやかんやあって(主にリナリーがずっとライにくっついていた)、当初の目的を思い出したライはリナリーと共に食堂へ来ていた。
というのも、騒動が起きる前にライが科学班室に向かったのは、リナリーと一緒に朝食を食べようとしていたからだったのだ。
食堂への道すがらライはずっとリナリーに手を引かれていた訳なのだが、すれ違う人全員の好奇の目に晒されていたライはどこか疲れたように小さくため息をつく。


『(まあそりゃそうだよな…こんな子供が教団(ココ)にいるんだから)』


いつもとはまるっきり違う見た目が大きいのもあるが、全員この少女がライだとは気づいていないようで、なぜこんな子供がここに…?という不思議と好奇心が混ざった目を幾度も向けられれば、人間誰しも精神的に疲れるだろう。
午前9時過ぎくらいの食堂は飯時よりは人が少ないものの、そこそこの人数がいつも通り談笑を繰り広げている。


『はぁ…』


正直こんなに疲れるとは想像していなかったライは、思わず再度ため息をついた。


「やっぱりその見た目だと、ここじゃ目立つわね…」
『もういっそ、"オレはライ・トキハです"って看板でも持って歩くか…?』
「あはは…」


相変わらずの好奇の目をちくちくと感じながらも、リナリーと共にジェリーの元へとたどり着く。


「おはよう、ジェリー」
「アラん!おはよう、リナ…」



リナリーに挨拶をしたジェリーがふとライに目を向け、そして固まった。


『……はよ、ジェリーさん』


ジェリーは、はは、と引きつった笑みを浮かべるライを凝視した後、


「ライ!!?えっ、嘘、ライなの!!?」
『ま、まぁ…(そうだった…ジェリーさん、昔のオレ知ってるんだ…)』


ジェリーの大声に、食堂にいた全員の視線がこちらに突き刺さる。
一瞬の静寂の後に、至る所からひそひそとした喋り声が生まれていった。


「ライ、ってあの…?」
「どう見ても子供じゃ…」
「リナリーさんと一緒にいるぜ?」
「リナリーちゃんて妹いたか…?」
「いやでもジェリーさんが今確かにライって言ってたよな…?」
「どうせまた室長がなんかしたんじゃねぇの?」
「えっ、こっち向いてくれねぇかな!」
「絶対可愛いだろ…!」


そんなひそひそ話から顔を背けるように目線をさ迷わせたライに、ジェリーが慌てて謝る。


「ご、ごめんなさいね!訳ありかしら…!」
『いや大丈夫、ってかジェリーさん!!焦げてるよ!?焦げてる!!』
「アラやだっ!?」


きゃーきゃーわーわーしながら、なんとかリナリーと共にジェリーに詳細を説明していった。


『…そんなこんなで、コムイさんからの続報待ちな感じなんだよ』


説明が終わる頃、ジェリーの調理もひと段落したのか、窓口からぐっと顔を出したジェリーがじっとライを見つめた。


『どしたの?』
「やっぱり女の子は笑顔が一番ね」


ウフン、とウインクを飛ばすジェリーに、ふとあの時を思い出した。


「女の子は笑顔が一番よ!さ、これ食べて笑顔になりなさい」


ジェリーと出会って間もない頃の記憶。


「さて!二人とも、何食べる?好きな物言って頂戴!」


隣でリナリーが注文している間に思い出したのは、


『オムライスがいい!』


一瞬、何かを思い出したように動きを止めたジェリーは、満面の笑みで頷いた。
瞬く間に出来上がり受け取ったトレイの上には、あの時と同じ、ケチャップでハートマークが描かれたほかほかのオムライス。


『…ハートマーク増えてない…?』
「フフ、気のせいよ!」


いただきます、と、リナリーと一緒にジェリーに挨拶してから、席に着くためにくるりと体を反転させる。
と、


『め、めっちゃ見られてる…』
「当たり前よ、だって天使がいるんだもの」
『冗談言ってる場合じゃないよリナリー…』


痛いほどに突き刺さる視線を潜り、比較的人が少ない席へとトレイを置いた。
久しぶりに食べたような気がするオムライスは、周りの視線なんてどうでもよくなるくらい美味しいものだった。


「リナリー、おはようございます」


そんな時、ふとかかる声。


「アレンくん、おはよう」


ちらりと見上げれば、たくさんの料理を持ったアレンが立っている。
相変わらず物凄い量だ。
それでいて、たぶんまた後で追加で持ってくるんだろうと考えると、それだけでお腹がいっぱいになってくる。


「ココいいですか?」
「もちろん」


リナリーの隣へ料理を置いていくアレンが、ちら、とオムライスを口へと運ぶライを見た。


「で、この子は…?」


可愛らしい子ですね、と微笑むアレン。


「あ、この子は…」
『はよ、アレン』
「えっ」


見ず知らずの少女から気さくに名前を呼ばれ挨拶をされたアレンが驚いたように動きを止める。
じっ、と少女を見つめるアレンと、挑戦的に笑うライの視線が暫く噛み合い続け…


「…………ライ…?」


小さく言ったアレンに、ライは、おお、と声を漏らした。


『すごーい!正解!』
「えぇぇええっ!?ホントに!?え、なんで!?」
「実はね…」


呑気に拍手をするライ、驚きのあまり身を乗り出しライを見つめるアレン……そして、何度目かの説明会が始まった。



* * *



「えぇっと……コムイさんが作ったよく分からない薬を飲んで、そうなったんですか?」
『んー』


なにやってんですかコムイさん……と引き気味のアレンに、リナリーも同調するようにため息をついた。


「でも、本人が案外ケロッとしてるから……たぶん、兄さんのことだし、すぐ何とかしてくれると思うよ」
『まぁ発動も出来るしね。それに、この姿だとリナリーとずっと一緒にいれるから悪くは無い!』
「うーん…でも、こんな状態のライを任務に出すなんてコムイさんがしないと思うけど…」
「兄さんが許しても私が許さないわよ」


ですよね、とアレンが苦笑し、そして再度ライを見た。
こてんと首を傾げるライに、くすりと笑ったアレンは、


「にしても、可愛いですね。髪、リナリーがやったんですか?」
『あの、可愛いって言うのやめよ?普通に恥ずかしいんだけど』


言葉の通り、ふいっと視線を外すライにリナリーが笑う。


「服も私のおさがりだし、髪もでき合わせみたいなものだけど…素材がいいから完璧に見えるでしょう?」
「ええ!とっても良く似合ってます!」


でき合わせなんてとんでもない、と素直に髪を褒めるアレンにリナリーは嬉しそうにお礼を言った。


『アレンてホント褒め上手だよな…』
「思ったことをそのまま伝えてるだけですよ」
『だから恥ずかしいんだってば…』


そこから、他愛もない会話をしながら遅めの朝食を終え、ライとリナリーは一旦科学班室へ戻ることに。
特に用事がないと言うアレンも一緒になって、ジェリーに改めて挨拶をしてから三人は食堂を後にした。


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