「「「はぁぁあああああーーーーー!!?」」」
『うっさ…!?』
科学班一同の大きな声にビクリと肩を震わせる、まだあどけない少女。
「……ライ…だよな?」
おずおずと身を乗り出したリーバーに、
『へ?そうだけど、…ってか、何?皆してそんな変な顔して…』
ふああ、と欠伸を漏らしながらも、なんかめっちゃスッキリするわー、と、のほほん顔の少女…ライの前にジョニーが鏡を持ってしゃがんだ。
「ライ、落ち着いて、この鏡を見て…」
『うん?ってかジョニーも、皆も、なんかいつもより大きくね?』
そう言いながらジョニーの持つ鏡を覗き込んだライの表情がピシリと固まった。
『…………』
「「「…………」」」
『な…』
「「「(…な?)」」」
『なんじゃこりゃ〜〜〜〜!!?』
そう叫んだ後、ぷくぷくとした柔らかそうな頬っぺたに両手を当てたまま放心状態のライ。
『なにこれ…なん、え、だれ?え?オレ?あれ…?』
「……落ち着いて聞け、ライ。実は…」
〜リーバーによる説明中〜
『…………』
顔をひくひくさせながらもこれまでの経緯を聞いたライは、ちらりと再度鏡を見た。
幼い頃にあまり鏡を見た記憶は無いが、確かに、今この鏡に映っているのは紛れもない幼少期の自分だ。
元々短髪だったためなぜ髪が伸びているのかはよく分からないが、恐らく教団に来たばかりか、来る少し前辺りだろう。
「うわあああんごめんねライちゃん!!ボクがちゃんと管理しておけば…!」
『い、いや…』
相変わらず泣いているコムイに、苦笑するしかないライ。
今の今になって気づけば、声も少し高くなっているようだ。
『元はと言えばオレが勝手に口に入れたのが悪いし…はは…』
「うっ…ううっ…」
「にしてもどーすんだこれ…」
ぽつりとぼやいたのはリーバーだった。
確かに、今のままでは任務どころではないし、いつ元に戻れるのか…更には、そもそも元に戻れるのかさえ危うい。
「記憶がある分まだマシだが……室長ォ、一応聞いときますけど、コレを何とかする薬なんてのは…」
「無い…」
ですよねぇ、と科学班一同の心が一つになる。
『あ、でもほら、一応イノセンスの発動は出来るぞ』
青白く光る刀を片手に言うライ。
発動して刀となったイノセンスは、しっかりと今のライの背丈に合うサイズになってはいるが、幼い少女と刀はなんともミスマッチである。
「こんなライちゃんを戦場になんて送れるわけないじゃないかぁぁあああ!!!」
うわあああんボクのバカぁぁ!と自分を責める言葉をいくつも呟きながら頭を抱えるコムイに、刀をブレスレットに戻しながらライが苦笑したその時、
「ただいま。…あれ?皆どうしたの?」
兄さんの叫び声が聞こえたけど……と、荷物を抱えたリナリーが科学班室の入口に立っていた。
室長机の周りに集まる人だかりに不思議そうな顔をしながら近づいていくと、気まずそうな科学班員達がゆっくりと道を開けていく。
「もう、また兄さんが何か困らせるようなことしたの?」
不思議そうな顔から少し怒ったような顔へと変えながら進んでいくリナリーの目に、やっと彼らの中心に隠れて立っていた幼い少女が映った。
ライが普段よく着ているラフな服を体にひっかけて立つその少女と目が合えば、
『あ、おかえりリナリー!』
その少女の姿が、出会ったばかりの頃の、過去の彼女の姿と重なる。
しかしそこにあるのは無表情ではなく、輝かんばかりの明るい笑顔だった。
「…え?」
ライ?とリナリーの口が動けば少女は、うん、とにっこりと笑う。
ガサッ、と音を立ててリナリーの持っていた袋が床に落ちた。
「……どういうこと…?兄さん?」
ゆっくりとリナリーが、未だにメソメソしているコムイを振り返る。
それはもう、綺麗な笑顔で。
「お、落ち着けリナリー!落ち着いて聞いてくれ、な!」
「どいてリーバー班長、私は今兄さんに聞いてるの」
「ちょ、ライ…!リナリーをなんとかしてくれ…!」
『え、オレ…?』
なんだかなぁ、とぼやきながらもライはくいっとリナリーの服の裾を引っ張った。
『えっとだな、リナリー、実は…かくかくしかじか……』
〜ライによる説明中〜
「……やっぱり、兄さんが元凶なのね」
『わああっちょっと待ってリナリー!オレの話聞いてた!?とりあえず発動解いて…!』
「…………」
リナリーの"黒い靴"がしゅるりと元のブーツへと戻ったことにほっと息を吐き出しながら、ライはコムイを振り返った。
『よく分かんないまま勝手に口に入れたのはオレだし、もう起こっちゃったもんは仕方ないし…出来たら早めになんとかしてくれると助かる…』
仕事増やしてごめんなコムイさん、と謝るライに、コムイはブンブンと首を横に振ったり縦に振ったりと忙しい。
そして、このままここにいるのも…と、この後どうしようかと考え始めたライの手をリナリーが取った。
『?』
「とりあえず私かライの部屋に行きましょ」
『部屋?』
「いつまでもそんな格好でいるわけにはいかないわ。まずは着替えなきゃ」
『あ、あの、リナリー、なんか目輝いてない…?』
先程とは打って変わってキラリと輝くリナリーの目に、ライの頬を冷や汗が伝う。
「ライ、昔の服はある?」
『いや、全部処分した…』
そう言えば、ギュッと握られた手。
ライがぎょっとすると、それはすぐに引っ張られた。
「なら私の部屋で決まりね!」
『リ、リナリー…!?ちょ、ま、まってオレこの体にまだ慣れてな、うわっわわわ…っ!?』
わあああああ、と情けない声を上げながら、小さくなったライはもつれる足をなんとか動かしながらリナリーに引っ張られていった。
「「「…………」」」
それを見送る科学班一同+コムイ。
「…とりあえず室長、あの薬の資料みたいなの、ないスかね…」
静かな空気の中、先程よりもやつれた様子のリーバーがぽつりと呟いた。