AnotherColor | ナノ


(モノクロ 01.黒の教団 を読んでから読むことをオススメします)



ここは黒の教団談話室(として使われている撮影所)。


『さってと〜!じゃあケーキ食べよ〜』


ルンルン気分で言うライに、リナリーが首を傾げた。


「あら、本当にケーキがあるの?」
『え?これだよ?』


机に置かれた、"ライ"と"ラビ"が買ってきたケーキの箱を指さすライに、神田が眉を寄せる。


「…撮影は終わっただろ?」
『うん、だからこのケーキ食べようよーって』


わくわくしながら箱を開けようとしたライに、リナリーがおずおずと口を開いた。


「残念だけど、これはただの小道具で……もしかしてライ、この箱の中身が本物のケーキじゃないの知らなかったの?」


ピシ、とライが固まった。


「ケーキを食べるところの撮影はないから、ケーキもないのよ…」
『え、じゃあコレは!?』
「ただのサンプルさね…」


驚いた様子のライに苦笑しながらラビが言えば、ライは相当ショックだったのか部屋の隅でのの字を描き始めた。


『オレの…チーズケーキ……え、だって、でも、お姉さん箱に詰めてたよ…?箱に、ケーキ、詰めてたよ…?』
「アホか、それがサンプルだったんだろ」
『アホのユウにアホって言われた…もう立ち直れない…』
「あ゙!?」


一層落ち込みしくしくと涙を流すライに青筋を立ててガンを飛ばす神田。
リナリーとラビは苦笑しながらその様子を眺めていた。


「こんにちは〜!…って、どうしたんです?」


そんな中、談話室の入口から聞こえた声に全員の視線が集まる。


「あら、アレンくん」
「んぇ?お前撮影まだじゃなかったっけ」


そこに立っていたのは、シンプルなシャツに身を包んだアレンだった。


「えぇ、ちょっと顔出しに…ってライ泣いてません!?どうしたんですか!!神田に何かされたんですか!!?」
「してねェよ!!!」


わたわたと慌てながら談話室へと入ってきたアレンは、片手に持っていたビニールに包まれた箱のようなものを机の隅に置くとライの横へしゃがみ込みその顔を覗き込んだ。


『あのね、ユウにね、アホって言われたの…』
「なっ…!」
「神田!酷いじゃないですか!」
「俺が泣かせたみたいに言うんじゃねぇ!!」
「ま、まぁまぁ…」


ラビが二人をなだめようとそろりと両手を上げる。
リナリーに一話の台本は読んだかと聞かれたアレンが首を振れば、リナリーは困ったように口を開いた。


「小道具でケーキの箱があるんだけど、ライったら本物のケーキが入ってると思ってたみたいで…」
「いざ食べようとしたら中身はサンプルでしたってオチさ」
『オレの、ケーキ…楽しみにしてたのに…』


なるほど…とアレンも苦笑を浮かべるが、何かを思いついたのかライへ優しく笑いかける。


「ライ、ちょっといいですか?」
『…ん…?』


アレンは徐にライが開けようとしていたケーキの箱を手に取ると、ライの目の前でパカリと開いた。
"ライ"が注文したケーキが美味しそうに並んでいる。


「まずはこれ、サンプルなんですよね?触ってみてください」


しょぼくれた顔で、ちょん、とライがチーズケーキに触れれば、人差し指の先には冷たく硬い感触。


『ホントにサンプルだ……』


残念そうなライの前でアレンはケーキの箱を閉じた。


「少しだけ目を瞑って」
『…?』


困惑した表情を浮かべながらも素直に目を瞑るライ。
アレンが離れた気配がしてからすぐ、少し離れた所からくしゃりと小さなビニールの音がライの耳に届いた。


『アレン…?』
「目、開けていいですよ」


目を開けたライの前で、先程と同じようなケーキの箱を持ったアレンがにこりと笑いかける。


「開けてみてください」


言われるがままアレンの持つ箱を開ければ、そこには先程とは若干種類の違う色とりどりのケーキが綺麗に並んでいた。
ふわりと香る甘い匂いに、ライがバッとアレンを見上げた。


「実は顔出しついでに差し入れ持ってきたんですよ。ケーキとクッキーで迷ったんですが、ケーキにしてよかったです」
『ア…アレン…!!神様…!!』


ぱあっと顔を明るくさせたライに大袈裟ですよ、と笑いながらアレンはケーキの箱を机に置いた。


「ふふ、よかったわねライ。私お茶の準備してくるね」
『あ、オレも手伝うよリナリー!アレンのこと今日からアレン様って呼ぼう』
「ちょっ、それはヤメテ…!」


恥ずかしそうにしながらも手をパタパタと振るアレンに、どういう意図なのかグッと親指を立てたライはリナリーに続いて談話室を後にした。


「そーいやアレン、台本読んでなかったんだな」
「実は出番がないから貰ってないんですよね…だからそれも読ませてもらおうと思って来たんです」


なーるほど、とラビが頷き、ニヤリと笑う。


「ケーキがサンプルでよかったなぁ。本物だったらダダかぶりじゃんか」
「ちょっとヒヤッとしましたけどね…サンプルでよかったです」
「この話の中じゃ、"アレン"てアンラッキーボーイなんだろ?現実でもそうだったら面白かったのに」


くく、と笑ったラビをアレンが睨む。
隣で神田が鼻で笑った。


「初顔合わせの時道路工事のせいで迷った挙句一時間遅刻したのはどこのどいつだ?」
「うっ…」
「そういやそうだったさ…案外リアルでもアンラッキーボーイだったりするんか、アレン…」
「ち、違いますよ!…たぶん」


と、


「お待たせ」
『お皿とかも貰ってきたよー』


リナリーとライが人数分の紙皿とフォーク、ティーカップとポット等を持って戻ってきた。
アレンとラビがお礼を言いながらそれらを回していく。


「どうぞ、好きなの選んでくださいね」
「ライはチーズケーキよね?」
『皆がよければ…!』
「お前のチーズケーキ好きは皆知ってるから今更だろ」
「リナリーは?こういうのはレディファーストさ」
「ふふ、ありがとう。じゃあ私はフルーツタルトにするわ」


そして、ラビはモンブラン、神田はアレンから一番甘くないと言われたカボチャのケーキ、最後にアレンが残ったショートケーキをそれぞれ皿へと移していく。


「はい」
『ありがと。リナリーが淹れた紅茶、美味しいから大好きだなぁ』
「ライのためならいつでも作るわよ」
『女神だ…女神がいる…』
「それは大袈裟…」


紅茶も全員へと行き渡り、では、とアレンが両手を合わせた。


『「「「いただきます!」」」』
「………」


こうして、談話室での賑やかなお茶会が始まった。




(突撃!隣のケーキ!)
(テメ…ッ!自分のがあるだろが!)
(めっちゃ美味しい!!)
(話を聞け!)
(アレーン、よそ見してていいんか〜?)
(あっ!?食べ物の恨みは恐ろしいですよ、ラビ!)
(ライ、これも食べる?)
(いいのリナリー!?オレのもあげる!)


(やっぱり皆で食べると美味しいね!)


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