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ヴーーーーーーッ


『っ!?』


突然鳴り響いた警報の音に、ライはびくりと目を覚ました。
ここは……最初に運び込まれた病室だろうか。


"緊急事態発生!アクマ 支部内に侵入!!"


ぼうっとする頭にスピーカーからの声が反響する。


"場所は北地区中心部 繰り返すーーー"


『(北地区…中心部……?何が…)』


"アクマ 支部内に侵入!!"


『っ!?』


ガバリと起き上がったライはベッドから飛び降り走り出した。



* * *



逃げ惑う支部員達の波に逆らい、前へ前へと進む。
が、焦った人の波は強く、たまに押し戻されてしまう。


『っ…天之真神…!』


一旦人の波から避けたライがその名を呼べば、一瞬にして仄かに青い光を纏った狼が現れた。
狼はライを背に乗せ、軽やかに人の波を通り越していく。
……と、


「バク様!」


下方でウォンがバクを呼ぶ声が聞こえた。


「ウォン!」


次いで聞こえたバクの声。
その姿を捉えたライは狼をブレスレットに戻しながらそのすぐ側へと着地した。


『バク!…フォー!?何が…っ』
「「「ライさん!!」」」
「ライ!起きたのか…!」
「ライ様、ご無事で何よりです!」


ボロボロになったフォーがバクに背負われている。


「バク様、北地区の支部員はすべてこちらに避難しました」
「そうか、よし!例のものは?」
「準備整っております」
「フォー!フォー、たのむ!お前が頼りだ」
「はっ…わかってらぁ、バク…」


背負ったフォーを優しく床へと降ろしながらバクが言う。
ライは慌ててフォーへと駆け寄り、その肩を抱いた。


『フォー!?大丈夫か…!』
「ライ、あたしより…ウォーカーの側にいろ…!」
『……!!』


ちら、と振り返ったフォーの視線を追えば、李佳に背負われたアレンが見えた。
その体は透き通るように色素が薄くなっている。


「ウォーカーはアクマの攻撃によって身体が脆くなってる。衝撃を与えないように気をつけろ」
『な…っ』


バクはライにそれだけ言うと、北地区の方へと数歩踏み出した。


「し、支部長、何する気っスか!?」
「この通路を塞いで、奴のいる北地区を隔離する!」
「え?」
「曾じじの血を引くボクらチャン家は、この支部の守り神の力を操作できるのだ」


はなれていろ、とバクが左手を前へ突き出した。
その掌には血で描かれた紋様。


"召喚!"


すると、バクの目の前に突然岩の壁が現れた。
こちらと北地区を分離するかのように通路をみるみるうちに塞いでいく。


「!?」
「岩石が生えてきたー!!」


驚く科学班見習い組を他所に、バクは焦ったようにフォーを呼ぶ。


「よっしゃ」


フォーはライの手を離れ、ふらりと立ち上がった。


『フォー?何を、』
「ライ」


ライの伸ばした手を笑顔一つで止めたフォーは、身をかがめるとそっとライの肩へ触れる。


「お前が忘れてる"大切なもの"……案外近くにあるぜ…」
『…え…?』
「本部の奴らも、ここにいる奴らも、あたしも…皆がそれを願ってる」


最大ヒントだ、とフォーはライの頬へ手を当てた。


「お前が愛する大勢の奴らは、皆お前の無事を一番に願ってる。それだけは、忘れるなよ…」
『フォー…?』


そしてライの頬をするりと撫でると、ふらふらとアレンの方へと歩いていった。


「ウォーカー」


アレンが薄らと目を開け、フォーを見る。


「しっかりしろよ。お前、見た目より全然根性あるから大丈夫だよ」


そして、一瞬にしてフォーの姿がアレンそっくりになった。


「きっと発動できらぁ、がんばんな」
「フォ…っ!?何…を…!?」


フォーは笑顔のまま、閉じていく岩石の方へと地を蹴った。


「やめろ、まさか…っ」
『フォー!?』
「エクソシストじゃない一介の守り神じゃあいつは倒せねェだろうけど、なんとか時間かせぐから逃げろよ!」
「やめろ、フォー!!」
『まっ…オレが…っ!!』


ウォン!とフォーが叫ぶ。
立ち上がって走り出そうとしていたライをウォンが床へと抑えた。


『嫌、フォー…!!っ離せ…!!』
「すみません、ライ様…!」
「バクさんやめさせて下さい!僕が行きます!僕が行くから、フォー!!」


ライとアレン、二人の叫び声も虚しく、岩の壁はフォーを北地区へと閉じ込め、大きな音を立てて閉まった。


『っ…フォー……』


ライの力が抜けたことを確認し、ウォンはそっとその拘束を解いた。


『なんで…なんでフォーに行かせた、バク…!』
「…そうするしかなかったんだ」
『っなんでだよ!』


バッ、とライがバクに詰め寄り、その肩を掴んだ。


「落ち着け、ライ」
「ライ様…!」
『オレだって戦える…!オレが行けばよかっただろ!』
「ダメだ」
『こん中じゃオレが一番戦える!!皆を守るって決めたんだよ!!』


パシッ


乾いた音。
周りが目を見開き黙る中、赤くなった片頬を抑えたライが呆然とバクを見た。


「…っ!」


バクは一瞬はっとした表情でライを見るが、すぐに目線を逸らすと痛みの残る右手をぎゅっと握り込んだ。


「…ライ、今のお前は"大切なもの"には程遠い。そんなお前を戦場に送り出すことは出来ない」
『っ………なんだよ、それ……』


ライは俯くと、その顔を辛そうに歪ませた。
そんなライの横をスっと通り抜ける影。


「…お前まで、やめろウォーカー」


バクへと詰め寄ったアレンが鋭くバクを睨んでいる。


「開けてください、バクさん。ここを開けてください」
「ダメだ」
「ウォーカーも、落ち着け!」


周りの制止を気にすることなく、アレンはひたすらにバクを見つめる。


「フォーを見殺しにする気ですか!!」


アレンの言葉にバクは目を伏せると、小さく息を吸った。


「キミ達は…エクソシストは我ら唯一の希望なのだ。エクソシストがひとり死ぬことが…………どれほどこの戦争に影響すると思っている?フォーは仕方ない。彼女のことを思うなら、今は耐えて、前に進むんだ」
『っ仕方ないって……!』


ライが牙を剥くように反論するが、すぐにバクの変化に気づいたように、あ…と小さく漏らした。


「…冷静なフリしちゃって、ホントは腹ワタ煮えくり返ってるんじゃないですか」


アレンも同様に気づいたようだ。
じとり、とバクを見た。


「ジンマシン出てますよ」
『…涙も、な』


ライが泣きそうな顔で困ったように笑った。


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