"…そっか、ライちゃんに全部話したんだね"
静かにコムイが言った。
"それで、ライちゃんは?"
「話し終わった後、すぐに倒れるように眠った。寝ていなかったようだからな」
"そっか…"
そして、少しの静寂。
それを破るようにバクが口を開いた。
「ライ、寝ながら泣いていたよ。たった一雫だけだがな……でも、彼女にとっては重い一雫だったろう」
"……ライちゃん、ボクらの前じゃ全然泣かないんだ。何があっても、いつも『大丈夫だよ』って笑顔を見せるんだ…"
「だろうな」
"あのブレスレットのことだって、いつか話さなくてはと思ってた。でも、いつも笑ってる彼女を見てたら、そのままの笑顔でボク達の中にいてくれれば、っていつの間にか思うようになっていて、どんどん先延ばしになってしまっていた…"
通信の奥で、コムイが自嘲気味に小さく笑った。
"ライちゃんに話してくれてありがとう"
「いつか知らなければいけなかったことだろう。それがたまたま今だったんだ」
すまない、と謝るコムイにバクは小さく息を吐くと、それより、と続けた。
「ライが忘れている"大切なもの"だが…」
"ああ…ボクもいろいろ考えてはみたんだけど…"
ライのイノセンスは"愛"によって動くのは確かだ。
子を思う親の愛、そして、教団からの愛。
それはライを守り、そしてライを強くさせた。
"愛は充分に受けているはずなのに、一体何が足りないんだろう"
その言葉にバクが、待てよ…、と呟いた。
「充分に愛を"受けている"…?」
コムイがはっと息を吐く。
"そうか…!ライちゃんが忘れていた大切な"愛"って…"
「ああ…恐らくは…」
バクは困ったように眉を寄せた。
「だが、アイツがそれに気づくかどうか…」
"ボク達からしたらとても簡単なものだけど、ライちゃんからしたら、とても遠い"愛"かもしれないね"
コムイも小さく苦笑する。
「伝えるのは簡単だが…こればかりはライが気づくのを待つしかないな」
"そうだね……バクちゃん、どうか、ボク達の分までライちゃんを見守ってあげてね"
「ちゃんを付けるな阿呆。当たり前だろう」
頼んだよ、というコムイに短い返事を返し、バクは通信を切った。