モノクロ | ナノ


「ここは、前に来た封印の扉の間じゃ……」


バクに連れられアレン、ライ、ウォンがやって来たのは、以前アレンが目を覚ましたばかりの時にふらふらと歩いて偶然辿り着いた場所。
ここで何をするのかと首を傾げたアレンに、バクは本気の戦闘だと告げた。


『ねぇバク、アレン大丈夫なの?今の状態で流石にこれは厳しいんじゃ…』
「もちろんライとの戦闘も考えたが、それだとお前達は本当の意味での本気にならなさそうだからな」
『う…確かにそうかも…』


仕方ないか、とライが黙ると、バクは扉に向かってフォーを呼んだ。
驚くアレンの後ろで、扉の模様にバチッと電流のようなものが走る。


「面倒くせェな」


同時に扉から声が聞こえ、模様が集まる中心部からバチバチと音を立てながらみるみるうちに人型が形成されていった。


「あたしの役目は小僧のお守りじゃねェんだっつの、バカバク」


その様子に驚くアレンに、バクが言う。


「あれは人ではなく、曾祖父の造った"守り神"から派生した結晶体でね」
「支部(ここ)を守る戦士ってワケ」


あたしは強いぜ、ウォーカー?
その言葉と同時に、両腕を鎌のような形状にしたフォーが地を蹴った。
一瞬にしてアレンとの間合いを詰めたフォーは、アレンが驚いている間にも片腕をその首筋へとあてがっていた。


「首捕った」
「…………っ!!」


にこ、と笑ったフォーは、その細い足でアレンの腹部を思い切り蹴り飛ばした。


「が…っ」
「「ひっ」」
『うっわ…容赦ねぇ…』


肩を縮こませ顔を両手で覆うバクとウォン、そして引いているライの横を通り過ぎ、ものすごい音を立てて壁に激突したアレンは、苦痛の表情を浮かべながらずるりと地面へ座り込む。


「って…!」
「本気出して来な、小僧。イノセンス発動しねェ限り、マジでお前殺すぜ?」


そんなアレンに、フォーは殺意剥き出しでにやりと笑って見せた。


「イイ…イノセンスを知る近道は実践だ!そして危機感は人を急速に進化させる!追い込めば何かしら活路が開けるかもしれん!!と思ったがやはり止めとくかウォーカー!この作戦はちょっとやっぱり危ないかもしれん!」
『いくら近道って言ってもな…イバラの道に爆弾が埋まってて更に上空から狙撃されるような道だろこれじゃ…』


思った以上の現場にバクが慌てて叫ぶが、アレンはその言葉を蹴るように血が混じった唾を吐き出した。
ゆらりと立ち上がり、口から流れる血を右手に巻かれた包帯で拭う。


「やりますよ。"追い込んで活路"作戦、いいかもしれない」
「えっ…」
『負けず嫌いだからなあアレンは………っと!』


アレンの様子に苦笑していたライに、突然横から襲う冷たい空気。
振り向いたのと同時にイノセンスを発動させれば、ガキンと金属同士がぶつかる音が響いた。


「おいコラライ…目ェ覚めたんならなんですぐここに来ねェんだ…」


物凄い形相で睨むフォーにライは、あはは、と乾いた笑みを漏らした。
ギリギリと刃物が擦れる音が継続していく。


『いやっ…ほら、いろいろあって遅くなっちゃったんだって…!』
「さっきお前の病室覗いたら空っぽだったんだぞ?ウォーカーみたいに抜け出したのかと思っただろうが」
『え、アレン病室抜け出したの?っていうかフォー、もしかして心配してお見舞いに来てくれたのか』
「あ゙ぁ!?んな訳あるか!!たまたま前通っただけだっ!」
『えぇ?あんな所をたまたま?』
「た、たまたまだ!悪いか!?」
『んな照れるなって』
「だ れ が だ !っつーかライ!まずあたしに言うことあるだろがっ!」
『見つけてくれてありがとう。フォーがいてくれたお陰でオレもアレンも助かったよ』
「!」
『っ、あれ?力弱まったぞ?』
「ううううるせェ!!」
『うおっ、だから照れんなって〜』
「だあああああっ!!」


「「「(…………武器しまって普通に話せばいいのに……)」」」



* * *



柱にもたれて座るライの頭がこくり、こくりと揺れる。
目は細く、辛うじて開いているようだ。


「っ!!」


目の前ではアレンとフォーが激しい戦いを繰り広げているが、その騒音はもうライの耳には届いていない。


「ぐっ…そっ…!」


フォーの一撃を、アレンがイノセンスを実態化して止めた。


「イノセンスよ……っ」


しかし、イノセンスにはアレンの想いは届かず、指の隙間からフォーの刃が切り込んでくる。


「……っ」


一瞬で粒子に戻ったアレンの腕を抜け、フォーの刃がアレンの首を切り裂いた……ように見えた。


「あ……あれ?くっつい…てる?」


恐る恐る首に手を伸ばしたアレンは自分の首が無事なことに安堵しながらも、その手は小さく震えていた。


「ふぁぁーーーっ」


後ろからフォーの大きな欠伸が聞こえる。


「悪い、眠くて実態化できなくなってきた」


アレンが振り返ると、所々映像にノイズが入ったようにちらつくフォーの姿。
目には涙を浮かべ、とても眠そうだ。


「十数時間はやってたし、ライも眠そうだし、ここらで一時眠ろうぜ。あたしが起きたら再開な」


それだけ言うと、フォーは再度大きな欠伸を漏らしながら扉の中へと消えていった。


「…………(眠たくなかったら首落ちてたのか…?)」


それを呆然と見送るアレンの足元がふにゃりと崩れる。
そのままアレンはバタッと倒れた。


「ウォーカーさん!」
「あっバカ蝋花!!」


広間の入口の方から、アレンへ駆け寄る影が一つ、そして二つ、三つ。
科学班見習いの三人だった。


「ぐーーーー」
「寝てる…っ」
「ったくもー」


そこへ近づく、一匹のゴーレム。


"ゴラーーーーー!!!"
「「「!」」」
『んん!?何、え、何!?』


ゴーレムから発せられた怒号は広間に響き渡り、三人はひゃっと肩を揺らし、ライはびくりと飛び起きた。


"貴様ら!!そこは立入禁止だと言っただろうが!!何してる!!"
「す、すんませーん」
"ライはどこだ!?"
「ライ?」
『ここぉー』


蝋花の問の後、三人の後方から間延びした声が答えた。
三人が振り返ると、先程まで自分たちが隠れていた柱の内側にライがゆったりと座っている。


"お前っ…見張ってろと言っただろう!"
『悪い悪い、暇すぎて寝落ちるトコだった』


へらりと笑ったライに、ゴーレムからは声にならない怒りが漏れる。


"…っもういい!お前達はついでだからウォーカーをベッドまで運べ!罰としてしばらく資料庫の掃除だからな!!"
「「「え゙ぇーーーっ」」」


三人の叫びが重なった。
ゴーレムとの通信が切れ、三人はがくりと肩を落としながらアレンに近づいていく。


「蝋花〜っ」
「ごめん〜〜〜っ」


蝋花へ唸りながらアレンを抱えた李佳と、必死に謝る蝋花、そして苦笑するシィフ。


『えーっと…』


三人の視線がライに向いた。


「あなたは…?」


シィフが顎に手を当て、僅かに首を傾げた。
残りの二人も、目をぱちくりとさせながらライを見ている。


『初めまして、オレはライ・トキハ。そこのアレンと一緒にここに運び込まれたエクソシストです』


苦笑しながら言えば、三人の目が一気に開かれた。


「ええっ!?」
「ん?運び込まれたエクソシストは少年と少女だって…」
『あー…』


李佳の言葉にライは自分の格好を見下ろした。
確かに、男に見えなくもない。


『バクの服借りてるからかな…自分が一応その"運び込まれた少女"なんですよね…』
「「「えぇーーーっ!?」」」
『そ、そんなに驚く…?』
「いやっ、もっとこう…!少女…?を想像して…」
「李佳、それ彼女に失礼」
「えっちが、そういう意味じゃ…!!」
『大丈夫大丈夫、服装によってはよく間違えられるから慣れてるんで』


安心させるように手をひらひらと振れば、李佳は、すんませんっ、とぺこぺこと頭を下げた。


『いやホントに…というか皆さんより自分の方が歳下なんで…気を楽に、いつも通りいてください、ね!』


困ったように笑えば、三人の頬がほんのりと染まった。


「「(綺麗な子…)」」
「(か、かっこいい…)」
『?』


その後、四人が打ち解けるのにそう時間はかからなかった。


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