モノクロ | ナノ


……体が…重い…?
いや、重いんじゃない。
重力に従ってゆっくり下へ下へと沈んでいく感覚に似ている。
ここはどこだろう…暗くて何も見えない。
こぽり、と口から空気の泡が漏れる。


『(…ここ……水の中…?)』


しかし、不思議と息は苦しくなかった。
むしろ体が何か暖かいものに包まれているようで、とても居心地が良い。
この感覚は知っている。
とても暖かく、懐かしく、そして愛情に満ちている。
……そうだ、自分はここを知っている…


『(母さんの…お腹の中だ……)』


自然と目から零れる涙。
でもどうして、自分はここにいるのだろう。


ライ…


『!』


懐かしい、自分を呼ぶ声。


『……母さん…?』


どうか……ライを守って…


『父さん…っ!』


あの子の未来に、どうか愛が溢れんことを…


『待って…っ……父さん、母さん…!!』


伸ばした手。
その先で何かが強く光り輝いた。
思わず顔を腕で覆い、目を瞑る。


『…っ……え…?』


目を開くと、先程まで真っ暗だった場所が明るくなっていた。
目の前に座っているのは、自分がよく見なれた姿。


『水牙…?』


仄かに青白い光を纏った大きな狼が、じっとこちらを見ている。


『っあ…ぁあぁああ…ッ』


突然ズキリと傷む頭。
断片的な動画を見ているかのように流れるたくさんの映像。
大切な仲間が、一人、また一人と倒れていく。
彼らは大量の血溜まりに伏せ、ピクリとも動かない。


主に進む覚悟はあるか


『…え…っ……』


戦に戻りたいと思うか


突然、頭の中に声が響く。
初めて聞いた声だったが、不思議とライにはその声の主がすぐに分かった。
それは、未だに微動だにせずこちらをじっと見つめる水牙の声。
ライはぎゅっと拳を握った。


『行か、なきゃ…』


一度深く恨んだ場所に、戻る覚悟はあるか


『……っ…』


頭を流れる映像が、あの時のものと重なる。
残酷な、死んでしまいたいとさえ思った、あの時。


『………』


ライは目をつぶった。
思い浮かべるのは、今を共に生きる大切な仲間達。


『覚悟なんて、とっくにしてる』


大好きで、大切な、


『皆がオレを救ってくれたあの時から、オレは皆のために戦うって決めたんだ』


家族(みんな)が帰る場所を、守るために。


『たとえこの命を差し出しても、絶対壊させはしない』


狼がスっと目を閉じた。


…その想い、しかと受け取った
ならば我が名、主へ託そう


胸の辺りがほんのりと暖かくなる。


呼べ、我が名を
我が名はーーー


『…天之真神(アメノマカミ)……』


フッと体が軽くなる。
まるで何かにひっぱり上げられているような、目を覚ます時の感覚に似ている。


主は大切なことを忘れている
あとはそれに気づくのみ…
さすれば我が力、全て主へ与えられんーーー



その声を最後に、ライの意識はフッと途切れた。


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