モノクロ | ナノ


アレンとライから荒い息が漏れる。
発動最大限解放はその名の通りイノセンスの発動を最大限まで引き出すもの。
イノセンスとのシンクロ率にもよるが、エクソシストにとっては致命傷を負うようなものだ。


「ライ、体が…!?」
『オレはいいっ…から…ッスーマンを…!』


身体中至る所からピキピキと音を立てながら小刻みに揺れるライに気づいたアレンが心配そうに声をかける。
しかしライは真っ直ぐにスーマンを見つめたまま。
そんな二人の束縛から逃れようと起き上がる咎落ちに、二人の足はまた後ろへと下がっていく。


『…ッ…スーマン…!!』
「止まってください、スーマン、お願いだ!イノセンスに囚われないで!あなたはあんなに生きたいと思ってたじゃないですか!」
『このままじゃダメだよ、スーマン!スーマンはもっと優しくて、お父さんみたいな人だった…!』
「あなたの記憶の中で幼い女の子を見ました。適合者として教団へ行くあなたが最後に見た娘さんの顔です」


“本当は教団になんか行きたくなかった”
でも、スーマンは難病を患った娘、ジェイミーの治療費代と引き換えに、エクソシストになる道を選んだ。


「あなたは死にたくなかった。もう生きて会えないと覚悟して別れたハズなのに、家族に恋焦がれた」


敵に仲間の情報を売ってまで、命乞いをした。


『そこまでしても、会いたかったんじゃないの…?知ってたよ、スーマンがいつも辛そうな顔してたのっ…それほど会いたかった…こんな所で死にたくなかった…っ』
「生きたかったんじゃないのか、スーマン!!」


それまで感情を無くしていたスーマンの目から一雫の涙が落ちたのは、ライ達には分からなかった。


「ライ、スーマンのイノセンスを切り離しましょう!」
『…確かに、あれを切り離したら、もしかしたら…』
「僕が行きます。ライはあと少しだけ、抑えていてください!」


二人は頷き合い、足に力を入れる。


「いくぞ、イノセンス…」


アレンがイノセンスに力を込めた時。


パァン


何かがはじける音がした。


「!!?」
『!?アレっ…』


突然発動が解けたアレンの左腕。
注意を逸らされた二人を見逃さなかった咎落ちは、グイッと体を傾けた。
剣で繋がれていたライの体は大きく横に振られ、むき出しの岩へと全身を叩きつけられた。
同時に、バキン、と氷牙の刀身が折れ、それらは粉々に砕け散っていく。


『がは…ッ』


口から血を吐き、そのまま地へ落ち動かなくなったライ。
そこへ、上方へ放たれたエネルギー派によって岩肌が砕けて降り注ぎ、ゴロゴロとライの半身を埋めていく。


「ライ!!!!」


キィン


「あ……っ」


ライへ向いていたアレンの視線が、自身の左腕へと戻る。
曲がるはずのない方へと曲がる関節。


「あ、ぁああ…あぁっ…ああぁあぁあああ」


痛い 痛い 痛い 痛い


「だれか…っ……ライ……っ…!!」


壊レ……


「うわぁぁああああああああああああああああ!!!」


アレンの膝が折れ、そのまま地に伏せた。
それに構うことなく、咎落ちはエネルギーを集めた両腕のようなものを振り回し村を破壊し始める。


「やめ…ろ…」


そんな時に聞こえた子供の声。


「おとうさん」


ピタリと咎落ちの動きが止まる。
村では、一人の子供が動かなくなった父親を揺すっていた。


「おとうさん、おとうさん、おとうさぁんん…やだよう、おとうさぁぁん…!やだよぅぅ…っ」


あの日と重なる、その姿。


「ジェイミー…」


コチン。
………その時が、来た。


「かっ!!」


咎落ちが光の柱に包まれた。
光の柱は周りの岩や瓦礫を吸い込むようにして空へと昇っていく。


「スーマン…?」


と、アレンが倒れている地面にも亀裂が走り、アレンごと、割れた地面もどんどん吸い込まれていった。
その中で、横になった咎落ちはその表面からボロボロと崩れていく。


「崩れて…いく?」


その様子をアレンは上空から不思議そうに眺めていた。


「どうして…スーマンは………っ!ライ…!」


ふと近くの岩の上に横たわるライを見つけた。
助けなきゃ、と起き上がろうとしたアレンだったが、力を入れた途端に左腕に激痛が走った。


「うっ…ぐ…っ、うう…っ」


ビキビキとバグのように動く左腕の発動をなんとか解くと、その手は細かく震えていた。


「(僕の左腕はもうだめだ。痛くて辛い。苦しくて悲しい。もう…戦えない。もう、何も、できない……ライさえ、助けられない…)」


ぺちっ


そんなアレンの頬を叩いたのは、


「ティム、キャンピー」


ガブッ!!


「イダダダダダダダダ!!!」


そのままティムはアレンの耳へと噛み付いた。


「なっ、何すん…っ」


痛みも忘れて思わず起き上がったアレン。
アレンの目の前へ飛んできたティムは、まるで何かを発射するかのようにその口を開いた。
噛まれたら痛そうな牙がずらりと並んでいる。


「……え?まさかお前、僕のこと怒ってる……?」


その言葉に返事をするように、ティムはこれでもかと大口を開けた。


「わーーっっ!!ごめん!わかった!ごめんなさい!!」


"がんばるよ!!"


自分から出た言葉にアレンは目を開く。
そして、ティムへと微笑みかけた。


「がんばる…」


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