キュイン、とアレンの左眼が反応する。
「(…6体)伏せてください、ライ、ラビ」
『ん』
「へ?」
早くに反応し素直に伏せたライと違い、反応が遅れたラビの目の前でアレンの対アクマ武器が発動した。
「どわさ!?」
すんでのところで避けたそれは、ラビを越えて遠く離れた建物の壁を撃ち抜く。
ドン、と音を立てて一体のアクマが爆発し、消滅した。
「5」
次いでアレンは左方向へと攻撃を放つ。
「4」
『さーん、にー』
そのカウントダウンに続き、ライが銃に変形させた水牙で同じ方向にいたアクマを撃ち抜いた。
『「いーち(1)」』
二人の声に合わせるようにアレンの背後から一体のアクマが飛び出す。
「火判!!!」
と同時に、そのアクマは火の柱に飲み込まれて消滅した。
10.咎落ち
「ぷうっ」
巨大化させた鎚を握って息を吐くのは、げっそりした表情のラビ。
「もぉーイヤさっ、お前怖ぇ!!アクマよりお前が怖ぇっ!!」
「えっ?どうしてですか、ラビ」
『ねぇ、早くに分かって便利じゃん』
「確かにそうだけど!突然撃ち出すなっつってんさ!!」
「仕方ないでしょ、僕は少しでも被害をへらそうと!」
自身を挟んで言い争いを始める二人を、間からのほほんと見守るライ。
『あ』
と、何かに気づいたように空を見上げると、その場から離れるようにスっと二人から後退した。
「どいてっ」
「「!?」」
すぐに聞こえた上空からの声にアレンとラビが空を見上げる。
「「うわ!?」」
同時に二人の足元に大きな何かが落下し、二人の体は反動で小さく宙を舞った。
土煙の中現れたのは、片腕に大きく太った猫をしがみつかせたリナリーだった。
『おかえり、リナリー!』
「ただいま、ライ」
そうライに微笑んで見せた後、地面にへたり込むアレンとラビにリナリーはきょとんと首を傾げた。
「?何してるのふたりとも」
「「…………」」
「おかえり、リナ嬢。どうじゃった?」
どこから現れたのか、ブックマンがラビの上へと綺麗に着地する。
ライの耳にラビの首からぐきっと変な音がしたのが聞こえた。
「うん、捕まえてきたわ。はい」
ラビの悲鳴を見事にスルーして、リナリーは大きな猫をブックマンへ見せるように持ち上げて見せた。
恐らくここまで来るためのリナリーのイノセンスのスピードに驚いたのだろう、ぶるぶると震え涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにさせた猫の口からは、ティムのものと思われる羽が覗いている。
「まだ胃袋に入ってないわよ」
『ほら、ぺってしろ、にゃんこ』
その口の前に両手を差し出しながらライが言えば、猫は素直にティムを吐き出した。
ころん、とライの手の中にティムが転がる。
『大丈夫か?ティム』
「あーよかった」
「コイツがいねェと、どこ行きゃいいんかわかんねェもんなぁ」
リナリーから解放された猫は小さく悲鳴のような鳴き声をあげながらすぐにどこかへ逃げてしまった。
「ティムキャンピー、お前も少しは気をつけろよ!」
珍しくアレンが口調を強めるが、ティムはライの手の中で静かにじっとしている。
反抗期?とアレンが眉を寄せた。
「それにしても一体いつになったらクロス元帥に辿り着けるんであるか?」
『そうだなぁ…中国大陸にきてもう四日、ティムがこっちだっていう方向は間違っちゃいないハズなんだけど…』
ライが手の中のティムを撫でるようにつついた。
残念ながら、クロスに関わる情報は一切手に入れていないのが現状だ。
クロウリーがさっと顔を青くさせた。
「まさか元帥はもうすでに殺され…」
「あの人は殺されても死にませんよ」
「言ってっことおかしいぞアレン」
「でも、こんな東の国まで…一体何の任務で元帥は動いているのかしら、」
と、何かに気づいたリナリー。
それにすぐ反応したライは彼女の視線を辿る。
『……え、それ』
「ちょっと左腕見せてアレンくん」
ライが言うより早くリナリーがアレンの左腕を掴めば、アレンが驚いたように声を上げた。
リナリーによって団服の袖から引き出されたアレンの左腕は所々が崩れ、今にも崩壊しそうに小さく震えている。
『!』
「うわ!?う、腕が崩れてんぞおい!?」
周りの視線を一度に浴びたアレンは慌てて額に汗を浮かべながら薄ら笑いを浮かべた。
「だ、大丈夫っ、ケガじゃないですよ?ホラ!最近ずっとアクマと交戦続きだから…ちょっと武器が疲れちゃったっていうか…」
なんとも苦しい言い様にライは顔をしかめる。
『なんだよそれ…』
「武器が疲れるなんて聞いたことねェぞ?」
「なんだろ、寄生型だからとか?」
「適当に言ってんだろ」
「確かに、おぬし左眼が開くようになってから、わしらの倍は戦っとるからな…」
『アレン…無理だけはすんなよ。オレだって、リナリーもラビも、ブックマンのじーちゃんだっているんだ』
「う…はい…」
『……リナリー?』
「まえから思ってたんだけど…」
ずっと俯き黙ったままのリナリーが、ライの呼び掛けに反応したのか小さく言った。
「アレンくんの左腕って…少し、脆いよね」
今にも泣きそうな表情が見えたのは、アレンとライだけ。
『(リナリー…)』
「………?リナリー?」
恐る恐る呼ぶアレンの声には答えず、リナリーはじっと俯いたまま。
「泣かしたさ」
「泣かしたな」
「泣かしたである」
「ええっ!?」
わーわーと騒ぎ始める男性陣を他所に、リナリーの頭へぽんと手を置くライ。
「……ライ」
『また怖い夢でも見たか?』
「………」
『大丈夫だよ、リナリー。リナリーはオレが絶対泣かせない』
「…………うん」
弱々しく肩口に乗せられた頭を、ライは幼い子をあやす様にぽんぽんと優しく叩いた。
* * *
「デイシャ・バリー、カザーナ・リド、チャーカー・ラボン。あちゃー、どれもリストに載ってないや」
お前は、なんて名前?
「助けて…誰か…」
死にタくなイヨ……
「おや、目を覚ましたようだぞ」
「おじさん、大丈夫?」
「何か飲んだ方がいいわ。ファン、お水汲んできて」
「はぁい」
ドゴッ
「オォオ…オォ……オオオオオオオ」