モノクロ | ナノ


『……まじなんでオレ来たんだろ、来なきゃよかった、ほんとにやだ帰りたい…』


薄暗い森の中を、ライ、アレン、ラビは村人と共にぞろぞろと進んでいた。
案の定こういう雰囲気が苦手なライは先程から小さくぶつぶつ呟きながらアレンとラビの団服を掴み、二人の背中にくっつくようにして隠れながら歩いている。


『…これオレいる?オレがここにいる意味ある?』
〔そっか…クロス元帥が残した伝言なら従った方がいいわね〕


空を飛ぶコウモリ型のゴーレムからは、リナリーの声。
ゴーレムはラビの伸ばした手へとまった。


「リナリーとブックマンはティムと先行っててください」
〔わかった。3人とも、気をつけてね。その…吸血鬼の人に噛まれると吸血鬼になっちゃうらしいから、ならないでね!!〕
「「うん…(吸血鬼の話信じてるんだリナリー)」」
『…犠牲はアレンとラビだけで十分だ…!オレはリナリーと幸せに生きていくんだ…』


ところで…というリナリーの声と共に、ゴーレムはラビの手を離れ空へ舞った。


〔ライは?そこにいるの?〕
「あー…」


ひたすら周りを気にしているライは変わらずぶつぶつと呟きながら、少しの木々の擦れる音にもいちいちびくりと肩を震わせている。
リナリーはゴーレム越しに声が聞こえないのを心配しているようだ。
アレン、ラビは苦笑しながら互いに顔を見合わせた。


「いるにはいるんですが…」
「今薄暗い森の中なんさ。ほら、ライ、こういうの苦手だろ?お話どころじゃないんだろ」
〔私が一緒にいてあげられればよかったのに…〕


二人共、ライを頼んだわよ、と、リナリーとの通信が切れた。


「(にしても、今どき吸血鬼なんてなぁ、アレン)」
「(ですよね)」


ぼそぼそと話しながら歩みを進める二人だったが、


「おふたり共!止まって!!」
『ぃ!?』


ライがびくりと肩を揺らす。
アレンとラビの片手にそれぞれ結ばれたロープを引っ張り、ゲオルグがその進行を止めた。


『っ、急に後ろから大声出さないでもらえるかなぁ…!!』
「これは失礼しました…!……クロウリー男爵の城門です」


ゲオルグの声に、三人は改めて目の前にそびえる巨大な門を仰ぎ見た。
門は顔のような装飾が施され、入口は巨大な口になっている。


「「(悪趣味ぃ〜)」」
『うわ趣味悪…』


二人の気持ちをはっきりと言葉に出したライは、ものすごく嫌そうな表情を浮かべている。


「この門をくぐると、先はクロウリーの所有する魔物の庭が広がり、そのさらに先の湖上の頂が奴の住む城です」


門の向こうからは、絶え間なく野生動物のものなのか何なのか、いくつもの奇声が響いてくる。
これには流石にアレンもラビも絶句し、顔を青ざめた。


「「「さあ、前へ!」」」
「「うっす…」」
『……皆今までありがとうさようなら……リナリー、ごめんオレ先に逝く…』


ギギギギギ、と嫌な音を立ててゆっくりと門が開いていく。
列を作ってぞろぞろと進む庭は至る所に悪趣味な彫刻があったり、十字架の墓のようなものが地面に突き刺さっていた。


「クロウリーって奴はすげェ趣味悪いな……あれ?」


周りを見ていたラビが、ふとアレンの左手に視線を移した。


「アレン、お前なんでもう手袋外してんの?まさか怖いの?」
「ははははは、まさか」


若干の片言で笑って言い切ったアレンは、逆にラビの右足太腿へ視線を送った。


「そういうラビこそ右手がずっと武器をつかえてますけど?」
「ははははは、オレは怖くなんかないさぁー」


アレン同様若干の片言で笑うラビ。
ライはというと…


『南無妙法蓮華経南無阿弥陀仏南無妙法蓮華経南無阿弥陀仏…』


真顔で目を見開き両掌を合わせ、ひたすらにお経を唱えていた。


ゾ ク ッ


『「「!!」」』


突然感じた何かの気配。
それはアレンとラビも同じようで、二人はライを隠すようにその体の前で背を合わせた。


「どうしました?」
『な、何かいる…!え、何、死ぬ?オレ死ぬ??』
「お、落ち着くさライ…」


アレンとラビの後ろから向こう側へ意識を集中させながらも、ライはぎゅうっと目の前の二人の団服を掴んだ。
ラビが苦笑したその時、


「近づいてくる」


アレンの声を合図に、ザザザザ、と聞こえるのは地を蹴る音。
身構えた三人だったが、





『「「!?」」』


何かの影がすごい速さで三人の間、そして村人達の間を通り過ぎた。


『っなに…』
「(速い!!)」
「何か今一瞬あまい香りが…」


影を捉えることができなかったのか、ゲオルグがハテナを浮かべながらぽつりと言った次の瞬間。


「ぎゃぁあああああ!!」
『ひっ!?』
「!?」


一人の村人の叫び声に全員が後ろを振り返る。


「フ…フランツが…フランツが殺られたぁぁぁ!」


そこに居たのは、


「出た…」
「アレイスター・クロウリーだ!!!」



フランツの首元に噛みつく、吸血鬼の姿。



* * *



「リーバー班長ぉーーー」

「あーーーい。なんですかー?今ちょっと手ェ離せねェからそのまま喋ってー」

「調べモンで本読んでたらなんか昔の調査書がでてきたんスけどぉ」

「へぇー」

「室長のハンコ押してなくてなんか未処理っぽいんスけど、捨てていーかなあ」

「バカタレー、未処理なら処理しろー」

「えー、だって8年も前のっスよー」

「内容は?何の奇怪〜?」

「吸血鬼伝説…」

「ただいまー。みんなぁーコキ使われてるかーーーい?」

「お疲れさまっス室長。早々なんですけど、吸血鬼伝説って記憶にあります?」

「なんですかもう仕事ですか鬼のリーバーくん、……吸血鬼?あー、覚えてるよ、クロウリー男爵とかいう人のやつでしょ」

「あれ?知ってるんスか。処理済み?」

「あれはイノセンスとは全然関係無かったよ。当時調査に行った探索部隊が何人も餌食になっちゃってさ。苦労したわりにハズレでガッカリした仕事だったなぁ」

「「「餌食って…」」」

「まあ八年も前の話だけどね。リーバー班長コーヒー」

「今手離せません」

「え゙ーーー!ボクはコーヒーがないと仕事できないんだーーーっっ!ライちゃんもいないし!!!癒しがぁぁぁあああ!!」

「あ゙ぁあぁああぁあ!!何すんだこの巻き毛室長!!ライがいなくてやる気起きねェのは皆同じなんだよぉーーー!!!」

「(吸血鬼の書類がなんでこんな本にあったんだろ。古代植物界百科……なんの関係があるんだろ?)」


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