数分後、アレンは椅子に縛られていた。
「吸血鬼!?」
「はい」
どうやら村人達をここまで必死にさせているのは、吸血鬼の存在らしい。
「この村の奥には昔から恐ろしい吸血鬼が住んどるのです!!」
怖い顔をしたゲオルグが力強く言う。
「その名も、クロウリー男爵。昼間は決して姿を見せず、奴の住む古城からは毎夜獲物の悲鳴が止まることがない。城に入ったら最後、生きては出られぬと伝えられております」
「そんな、まさか、今どき吸血鬼なんて…」
くわっ
「ごめんなさい続けてください」
「ただ、城に近寄りさえしなければ、クロウリーは我々に危害は与えませんでした。クロウリーは城で静かに暮らしておったのです」
だが、ある日の夜、突然…
最初の犠牲者は、独り身の老婆だった。
クロウリーは老婆の身が蒸発するまで生き血を吸い付くし、そして殺した。
『「うそぉ」』
突然の第三者の声に、アレンと村人達は跳ね上がった。
「なっ、何奴!?」
「ライ、ラビ!?どうしてここに?」
驚きそれぞれの武器を構える村人達。
アレンは近くの樽の中に入り込んで肘をつくラビと、その後ろにある積まれた樽の1番上に胡座をかいて座るライを、村人とは違った驚きの顔で見つめた。
「お前を捜しに来たんさぁ」
『アレンこそ…何やってんの?』
新しい趣味?と笑いながら言うライに、アレンが違いますよ!と返す。
「はっ、村長!あの少年の胸…!」
「はっ!!」
三人がわちゃわちゃしていると、
「黒の修道士さまがもうひとりィー!!!」
「やった!」
「押さえろ!」
『うお!?』
ものすごい勢いでラビに向かって突進してくる村人達。
ライが樽に手を着きバク転しながら回避するとすぐに、村人達はものすごい音を立ててラビを見えなくした。
『あっぶねぇ…』
「ラビ…ご愁傷さまです…」
* * *
「で、なんなんですか一体?黒の修道士って…」
ひたすら暴れて数分後、相変わらず椅子に縛られたアレンの隣には、同じように椅子に縛られたラビの姿があった。
ほらなオレの予感は当たるんさ、とぼやくラビの隣には、唯一縛られていないライが樽を椅子代わりにして胡座をかいている。
「…ところで、あなたも修道士さまでしょうか?」
ふと、ゲオルグがライへ尋ねた。
『その修道士ってのがよくわかんないんだけど…これのことですか?』
ライが真っ黒なコートの胸元部分を開けば、そこから覗くのは団服の胸元に輝く教団のシンボル、ローズクロス。
それを見たゲオルグや村人達は途端にざわついた。
「なんと…!修道士さまが三人も!」
「奇跡じゃ…!!」
『あの、ちゃんと話は聞くんでこのままでお願いします』
じりじりとこちらに滲みよってくる村人達に、ライはさっと両手を上げた。
「…実は、クロウリーが暴れ出す少し前に、村にひとりの旅人が訪れたのです」
ひとつの咳払いの後、ゲオルグが静かに話し始めた。
「旅人は神父と名乗り、クロウリー城への道を聞いてきました。死ぬかもしれないと必死で止めたのですが、旅人は笑いながら城へ行ってしまったのです」
それから三日経ち、やはりクロウリーに殺されてしまったかと思った時、
「(だから言ったのに…)」
なんと、旅人は戻ってきたのです。
「あ、あんた、よく無事で…!」
「弁当屋よ、もし古城の主に何か異変があったら、私と同じ十字架の服を着た者達に知らせろ。そやつらが事を解決してくれる。待っていればいつか必ず、この汽車に乗ってくるであろう」
そして、旅人は去っていきました。
「神父…」
「同じ十字架…?」
『え、それって…』
「それからしばらくして、クロウリーは村人を襲うようになったのです。今日までにすでに9人の村人が奴の餌食に……」
なにか思い当たる節があるのか三人とも同じことを考えているのか、同じような表情でぽつりぽつりと続けて言葉を漏らす三人。
「くそーっ!許せねェ!!」
「おれの幼なじみも奴にやられた!」
「吸血鬼を退治するんだ!」
「そうだ!」
「クロウリーを殺せ!」
三人を他所に、村人達は一丸と躍起になって武器を握りしめている。
「私どもは今夜、決死の覚悟でクロウリーを討ちに行くつもりでした」
が!と、ゲオルグは三人を真っ直ぐ見つめ、そして、
「主は我らをお見捨てにはならなかった!黒の修道士の方!どうかクロウリーを退治してくださいましぃーーーー!!!」
村人と共に涙を流しながら土下座をしたのだった。
「オレらはアクマ専門なんだけどなー…」
「なんと!悪魔まで退治できるのですか!心強い!」
「いや、そのアクマじゃねーんだけど」
『普通の人にアクマなんて言ったらそりゃそーなるわ…』
ちなみに、とアレンがそろりと口を開いた。
「その旅人ってどんな人でした?」
「こんな人でした!」
アレンの問いに筆を執ったゲオルグが紙に何かを書き、声と共にこちらを向けられたその紙に書かれていた人物は…
『……絵、上手いな…』
誰がどう見ても、クロス・マリアン元帥そのものだった。