只今、ライはラビと空の散歩中。
ライはラビの後ろに横向きに座って、前に座る広い背中に肩を預けていた。
そこそこのスピードだが、長く走り回っていたライには過ぎていく風が心地良い。
「で?何があったんさ?」
近くにいれども風に負けないように大きな声を出すラビに、ライも周りの景色を眺めながら声を上げた。
『ひったくりから可愛い女の子を助けたらその子から追いかけられた』
「…あー、あの時下にいたコか」
『アクマより怖いわ……たまたまラビがいてくれて助かった、っていうかなんであそこにいたんだ?』
そういえば、と、ふとあの時押し込めた疑問が浮上し、ライはラビの方を向く。
「任務帰りに寄ったんさー。コムイから、帰る途中にライが任務で行ってる街があるって聞いて」
『なるほど、ナイスタイミングだ二人とも!』
「ホントにな。相変わらず女の子にモテんだなぁお前…」
羨ましいさ〜と小さく膨れるラビに、ライはため息を吐いた。
『そりゃ、嬉しくないわけじゃないけど、限度というものがだな………っていうか、』
「ん?」
ふと、ライは今気づいたというように自身の手首に蒼く光るブレスレットへ視線を落とした。
『水牙に乗れば普通に逃げられたんじゃ…?』
「あのワンちゃんか!たしかに、逃げられたんじゃねぇ?」
『うわあああああ……初めから水牙に頼ればよかったんだ…』
「ちょ、助けたのオレなんですケド…」
はああああ、と再度ため息を吐いて景色を眺め始めるライに、ラビは小さく笑みを漏らす。
その振動がラビの背中からライの肩へ伝わった。
「なんか甘いモンでも食って帰るか〜」
『えっまじラビの奢りな!!!』
「やっぱりそうくると思ったさ!……まぁいいけどよー」
わーい、と少し明るくなった声に、ラビは再度小さく背中を揺らした。
『何笑ってんだ兎さん』
「んー、平和だなぁと思って」
01.黒の教団
それから暫く他愛もない話をして、教団に帰る前に立ち寄ったのは教団から割りと近い小さな街。
たまにライも買い物に来たりするそこそこ馴染みのある街だ。
どのお店に入ろうかと二人で歩いていると、ふと色とりどりのケーキサンプルが並んだショーケースが目に入った。
『ラビ、ラビ!』
「ん?」
ショーケースから目を離さずに隣を歩くラビの服を引っ張れば、ラビもつられてショーケースへと目を向ける。
「あの店がいいんか?」
『ん。思ったんだけど、持って帰って皆で食べようよ!』
「あぁ、いいんじゃねぇ?買って帰るさ〜」
『よっしゃあーー!!』
意気揚々と店内へ入っていくライと、その後を微笑ましく続くラビ。
店内はお洒落な雰囲気で、これまたお洒落なBGMと装飾だ。
ラビが店員と話しているライの方へ向かうと、
『持ち帰りで、全部ください』
「いやちょっと待つさ!?」
ライのとんでもない注文にラビは即座にツッコミを入れた。
店員も笑顔のままぽかーんとしている。
『え?だってうち沢山いるじゃん?』
「お前は食堂でパーティでも開くんか!?」
『えー』
「えーじゃありません」
思わず小さく笑いを零す店員。
ラビは頬を掻くと、ったく、と小さく漏らした。
『しょうがないなあ……じゃあリナリー、ラビ、オレ…と、ユウの四人分かなあ』
「ん、じゃあ『というわけで、全部ください』どういうわけなんさ!?」
今度は店員も隠さずにふふふっと笑った。
仲がいいんですね、と言われたラビは、まぁ、と照れたように小さく呟いた。
と、今度は真面目に考えたのか、ライが視線を店員へ移してすみません、と小さく言う。
『んーと、リナリーがこの苺のタルトで、オレはチーズケーキで、ユウは…甘さ控えめなのってありますか?』
「当店のガトーショコラは割りと甘さ控えめでお作りしてますよ。その代わりに甘いクリームをお付けしてます」
『じゃあガトーショコラを、クリームは付けなくて大丈夫です。……ラビは?』
ライに振られ、ラビは改めてケーキを眺めた。
たくさん種類がある中に先程ライが注文していたケーキを見つける。
「んー、オレもガトーショコラにするさ。こっちはクリーム付けてクダサイ」
「かしこまりました〜」
ラビが視線を手際よくケーキを箱に詰めていく店員からライへ移すと、その手には財布が握られている。
視線に気づいたライは一度自分の財布へ視線を落とすと、再度ラビを見た。
『ほら、四人分になったし』
「別にこのくらいなら大丈夫さ、オニーサンに任せなさい」
『え、でも』
「いいの、二人分も四人分も変わらないさ。気持ちだけ貰っとくな」
ラビはぽんぽんとライの頭を撫でると、詰め終わったケーキの会計へ向かう。
「ありがとうございました〜!」
笑顔の店長に見送られて、ライとラビは外に出た。
ちなみにケーキはラビが持っていて、ライは手ぶらでその隣を歩いている。
『ラビ、せめてケーキ持つぞ?』
「荷物は男が持つもんさ」
『う、ぬー…』
ライはなんとなく、荷物を持たせてしまっているという気持ちと共に手持ち無沙汰でふわふわする両手を背中でぎゅっと握った。
「…相変わらず人からの好意に慣れてないんだな?」
『こればっかりはなあ……なんか申し訳なくなって』
「やりたいからやってるんさ、ライが気にすることはないさ。むしろ、どーんと構えればいいんさ!」
『……ありがと』
にっと笑うラビに気恥しくなったのか、ライは口元を団服のネックに隠した。
「お?もしかして照れてんのか?オニーサンに惚れたか〜?」
『ラビって黙って動かなければ絶対モテると思うんだけどね』
「オレに人形になれと!?」
『そんなことは言ってないさぁ〜』
「あっこら真似すんな!」
ケタケタと子供っぽく笑うライに釣られ、ラビの口端も弧を描いた。