モノクロ | ナノ


『これとー、…あ、あとこれも食べたい!』
「じゃあ、それも買っていきましょうか」
『よっしゃ!』


ただ今とある駅に停車中。
寒さに弱いライは団服の上から真っ黒なコートで全身を覆い、リナリーと共に食料調達のために汽車を降りていた。
ホームにある出店であれやこれやと手に取るライを微笑ましく見るリナリー。


『…よし、こんなもんかな』
「そうね、…すみません、これでお願いします」
「はい、毎度」


店主が品物が入れられた紙袋をライとリナリーへ一つずつ渡すと、続いてチャリ、とリナリーの手の中でおつりが音を立てた。


「じゃあ戻りましょうか」
『あ…その、リナリー』
「ライ?どうしたの?」


汽車へ戻ろうと足を進めたリナリーを止めたのはライだった。
振り返り笑顔で尋ねるリナリーに、ライは言いにくそうに口を開いた。


『アレンとのこと、なんだけど…』


ライがアレンの名前を出した途端、リナリーの笑顔が曇る。


『オレが口出せることじゃないのはわかってるんだけど…でも、二人には前みたいに笑ってて欲しくて…』
「ライ……」


一瞬の静寂が二人を包む。
何か話そうとライが口を開いた時、


「リナリー」


第三者の声に二人が振り返ると、どこかいたたまれなさそうにいるアレンの姿があった。


「その…そういえば…あれから一度もちゃんと話してないなと……思って」



おずおずと言葉を紡いでいくアレンに、ライは何か話そうと貯めていた息をふうと吐き出し、買った品物を抱え直す。


『リナリー、オレ先に戻ってるね』
「あ、ライ…!」


ライはリナリーへ軽く微笑むと、すぐ足早に汽車へと戻っていった。


『(これで仲直りできるといいけど…)』


二人が心配だったライは客席へ戻ることなく、入り口からそんなに遠くない壁に背を預けて二人を待っていた。
多少距離があったため会話は聞こえなかったが、少しして、入り口から誰かの走ってくる足音が聞こえる。
ライが顔を上げると、どうやら足音はリナリーのものだったようだ。


『リナリー、おわっ?』


リナリーは待っていたライに気づくと、抱えた買い物袋を気にすることなくそのままライにぶつかるようにして身を止めた。
寸でのところで自身の買い物袋を避けるように頭上へ持ち上げたライは、自身の胸辺りに顔を埋めるリナリーと、間でがしゃ、ぐしゃ、と音を立てる買い物袋を交互に見つめた。


『……仲直り、できた?』


躊躇いがちにこくりと頷くリナリー。
ライは両手で持ち上げていた買い物袋を器用に片手で持ち直すと、空いたもう片手であやす様にリナリーの背中を軽くとんとんと叩いた。


『よかった。頑張ったな』
「……うん…」


優しい声で言うライに、リナリーはもう一度小さく頷いた。


プルルルルルル


汽車が発車のベルを鳴らす。
ゆっくりとリナリーがライから離れ、隣の壁へともたれた。
買い物袋は結構くしゃくしゃになっていたが、リナリーは構うことなく両手でぎゅっと抱き抱えている。


『…全く、リナリーを泣かせるなんて……アレン許さんぞ…』
「っ、これは私が勝手に…!」
『でも、これがなきゃリナリーが泣くことはなかったんだから』
「…え、っと…」


汽車が揺れる。
恐らく発車したのだろう。
自身の目元を指でなぞりながら困ったように視線を逸らすリナリーに、ライはくすりと笑みを浮かべた。


『アレンには今度ケーキでも買ってきてもらおう。んで、皆で食べよ』
「え…」
『前はアレンがいなかったけど……今回はアレンもいれて、皆でね?』
「…そう、ね」


二人が小さく笑い合う。


「ライ」
『ん?』
「ありがとう」
『ええ?オレはなんもしてないよ』
「私やっぱり、ライが大好きよ」
『…へへ、大好きなリナリーにそんなこと言ってもらえて、オレは幸せだなぁ』
「ふふ、なにそれ」


ほのぼのとした空気が流れたところで、ふとライがきょろりと視線を動かした。


「どうしたの?」
『いや…アレン、ちゃんと汽車乗ったよな?』


その言葉にリナリーも瞬きを繰り返し、二人は一斉に入り口のある方向を見る。
人の気配は無い。


『……まさか、な』
「もしかしたら、もう席に戻ってるかもしれないわ」
『だといいけど…とりあえずオレらも戻ろっか』


お腹も空いたし、と笑いながらブックマンとラビが留守番をしている席へと戻ったライ達を待っていたのは、


「あれ、アレンは?」
「え?」
『……こりゃ大変だぁ』


ライは大きなため息を吐いた。



* * *



時は少し遡り…
ホームで無事リナリーと和解(?)したアレンは、ほっと顔をほころばせていた。
そこへ響く汽車の発車のベル。


「ヤバッ!乗りま…」


まだ外にいたアレンは慌てて乗ろうとする、が。


ガッ


「!?」


その手を掴み乗車を阻止したのは、先程ライとリナリーが買い物をしていた出店の店主だった。


「あなたの胸にあるそれは、十字架ですか?」


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