「しっかし反応遅いぞ、アレン。アクマの姿になってから戦闘態勢に入ってたら死ぬぞ?」
「ごめん」
三人が辿り着いたのは、電車が何台も置かれた開けた場所。
線路から外れた列車や、線路の上に積まれた鉄塔があることから、そこは長く使われていないことが分かる。
「…二人は、どうしてわかったの?」
軽く歪めた表情のまま、アレンが尋ねた。
「わかってんじゃねェよ、全部疑ってんだ。自分に近づく奴は全部ずっと疑ってる」
『…昨日会った人が、今日はアクマかもしれない。オレらはずっと、そういうのと戦争してんだ』
ライはアレンの方を見ずにぽつりと呟いた。
「お前だってそんなことわかってんだろ、アレン」
長く使われていないはずなのに。
置かれたたくさんの電車の中や、上、反対側にある大きな建物の方からも、たくさんの人間がゾロゾロと姿を現し始めた。
「オレらはサ、圧倒的に不利なんだよ」
三人を中心に、人間はどんどん増えていく。
「便利な眼を持ってるお前と違ってさ」
『アクマは人間の中に紛れる。オレらエクソシストにとって人間は皆、伯爵の味方に見えちゃうんだ』
悲しそうに笑うライに、アレンの目が見開かれた。
と、風を切る音が聞こえたかと思うと、三人がいる場所へ降ってくる大きな球。
それは派手な音を立てて地面を抉った。
「ライ!ラビ!」
「ダイジョブ!雑魚ばっかだ!」
『さて、やりますか』
ライとラビがそれぞれ武器を構えたと同時に、今まで人間の姿をしていたものたちが次々と本来の姿を現していく。
激しい戦いの音が辺りを包んだ。
『…大丈夫かな、アレン』
「大丈夫っしょ、アレンなら」
アレンとは離れた所でアクマを破壊しているライの呟きに、ラビが安心させるように声をかけた。
「キャアアア!」
そこへ突然響いた女性の悲鳴。
ライが振り返ると、アクマに捕まり顔を腫らした女性が助けを求めるようにアレンへ手を伸ばしている。
『っアレン、そいつは』
「っ、大丈夫さ。ライ、アレンは大丈夫」
周りを無視して慌てて向かおうとしたライへ迫るアクマを破壊しながら、ラビがライを止めた。
『…ごめん、ラビ』
「いーえ。ほら、まだまだ来るさ、集中集中!」
『……ああ』
バカだ、僕は
ノアが…人間が敵になると知ったくらいでグラついて…
ライとラビの言葉で思い出した
「何故、いつも団服を着てるかだと…?」
「だって目立ちますよその服。十字架の紋章掲げて、エクソシストってバレバレじゃないですか」
「馬鹿弟子。バレるために着てんだよ。お前とは違うのだ阿呆。見えん敵に対してこっちまで姿隠してどーする。こいつは“的”なのさ。こうしてれば近づく者をすべて疑える」
「襲われるのを待ってるんですか……?」
「そのための団服だ。お前に…こんな不安は無いのだろう、アレン」
師匠もラビもライも…エクソシストになった人達はみんな、人間の中でずっと人間を敵と見て戦ってきたんだろう
その中にいるアクマと戦うために
身を曝して囮となって、守るべき人間を守るために
ドン
「あああ…!」
アレンによって解放された女性は、すぐにアレンの元へと泣き崩れた。
「大丈夫?」
「ゔゔっ、ううう〜う〜〜!」
カチ、とアレンの額へ向けられる、アクマの銃口。
「遅いよ」
同時に、アレンの対アクマ武器が女性…の姿をしたアクマの腹を撃ち抜いていた。
* * *
もうもうと土煙が立ち込める、瓦礫の山と化した建物の上で、アレン、ラビ、ライの三人はそれぞれぐったりと体の力を抜いていた。
「何体壊った?」
「30……くらい」
「ライは?」
『え、…アレンと同じくらいじゃないか?』
お互いがお互いを見るわけでもなく、ぽつりぽつりと会話が続いていく。
「あ、オレ勝った。37体だもん」
「………そんなの数えませんよ」
「オレ、なんでも記録すんのがクセなのさ〜」
『合わせて100か…なんとまあアクマの無駄使い…』
ライがやっと水牙をブレスレットに戻しながら大きくため息を吐いた。
「単純にオレらだけに向けられた襲撃だな。お前らとリナリーが負傷してるのを狙ってか……はたまた何か別の目的か…」
「!」
『まさかこれ、オレらの足止めも…?』
「大丈夫かな、病院……痛て!!」
ゆっくりと起き上がるライに続いてアレンも起き上がろうとしたが、腕に走る痛みに悲鳴を上げた。
ラビが槌を片手にアレンへ歩み寄る。
「ダイジョブか?まだ完治してねんだろ、その左」
「まぁね。僕も二人みたいに装備型の武器がよかったな…」
寄生型なんてフベンなだけだよ、と零すアレンにライが、はは、と乾いた笑みを漏らす。
不意にラビがライの方を向いた。
「ライも、痛むだろ、腹」
『……相変わらず鋭いなあラビは…』
「え、ライ大丈夫ですか!?」
へらりと笑って大丈夫だと返すライに、アレンは心配そうな顔を崩さないでいる。
そんな二人から視線を外し、ラビが確かめるように言った。
「……病院てあっちの方だよな」
「え…うん、多分」
『ちょ、今回はやめといた方が…』
止めの姿勢でいるライを無視してラビは槌を逆さまにして地面に刺すと、アレンへ「ここ握って」と自分も握っている柄を指さした。
「何?」
「ライは?」
『オレは水牙がいるからパス』
いつの間にかライの隣に大人しく座る、狼となった水牙。
水牙の頭ををぽんぽんと撫でながら言うライに、また後でなー、と言った直後。
「大槌小槌…」
頭にハテナを浮かべるアレンを他所に、
「伸!」
「い゙っ!?」
槌の柄は持ち主の声に応え、悲鳴をあげるアレンをつれて病院の方へ勢いよく伸びていく。
それを乾いた笑みで見送りながら、ライは水牙に跨った。