『……ん、ぅぅ…』
「!ライ…!?」
ゆっくりと浮上していく意識。
最後にそれを引っ張りあげたのは、自分を呼ぶ声だった。
「目ぇ覚めたんか!?」
うっすらと目を開けるライの視界に入ったのは、燃えるような真っ赤な髪と、心配そうに揺れるグリーンの瞳。
『ら、び…?』
少し掠れる声で相手の名前を呼べば、ラビは安心したように顔をくしゃりと緩めた。
「よかった…ホントによかったさ…」
『なんで…泣きそ、なのさ…』
「当たり前だろ!ったく、心配かけやがって…」
大きなため息と共に吐き出された言葉に、ライはゆっくり瞬きをくり替えした。
しかしすぐにその目は大きく開かれ、がたんと音を立てて体を起こそうとした、が。
『っ、うぁ……ぅ…』
ずくりと痛む腹部とふわふわと揺れる頭、そして真っ白に染まる視界。
ライの体は僅かに一瞬浮いただけで、すぐに小さな呻き声を上げてベッドへと逆戻りした。
「ちょ、まだ安静にしてろ!傷開いたらどうすんさ!」
『っ…アレン、と…リナリ、は…どこ…っ、だいじょぶ…?ミランダは…!』
まだ焦点の定まらない瞳を不安そうに揺らめかせながら、矢継ぎ早に言葉を紡ぐライ。
ラビはそんなライの両目を覆うように、自身の片手をライの額へ優しく被せた。
ライはびくりと体を揺らすが、だんだん体の力が抜けていく。
「アレンもリナリーも今、手当受けてる。も少ししたら終わるだろうから、そしたらちょっとだけアレンのトコに行ってくるな」
『……ん、』
ラビの暖かい手と優しい声に、ライの意識はまた沈んでいこうとする。
「ミランダはさっきまでここにいたんだけど…ちょっと起きるのが遅かったな。……でも、またそのうち会えるさ」
ラビは手をずらすと、撫でるようにライの髪を優しく梳いていく。
手がどいたことでライがうっすらと目を開けると、ラビの暖かい笑みがライを見下ろしていた。
「三人の任務は完了。街もちゃんと元に戻ったらしいさ。…お疲れさん、も少し眠るといいさぁ」
『…、………』
ライが小さく吐息を漏らすと、その意識はまた深く落ちていく。
ラビはライが眠ったのを確認すると、最後に頭をひと撫でしてから静かに部屋を出た。
* * *
アレンくん、リナリーちゃん、ライちゃん
目覚めるまでいられなくてごめんなさい
「ミランダ引っ越すんだってさ」
「マジ!?」
「追い出されんじゃなくて?」
私が時計のイノセンスを発動したあの日から、街はなぜか奇怪が解けました
街の人達は三十四回も十月九日が来たことなど全く知りもせず、まあ、私が原因だったのだからその方がありがたいのですが
三人は、時計が奇怪を起こしたのは私の心に反応したからだと言っていたけれど、今こうして思うとあの奇怪は、時計が私を試すために起こした気がするの
おかしいかしら、こんな考え
「今度浮気したらゆるさないから」
「わかってるよ。本当に愛してるのはキミだけだ」
だって時計は、私がアレンくんを庇うあの時まで、ずっと黙ってたんだもの
「お世話になりました」
「ああ、元気で」
でも、おかげでやっと自分の居場所を見つけられた気がする
「あの、コレ…汚した壁紙の張り替え代、ここに請求してください」
「どこだい?」
「再就職先です」
また会いましょう
今度はエクソシストとして、お役に立ちます