モノクロ | ナノ


ドドドドドド…


『んー…こんだけ動き回ってんのにアクマもイノセンスも全く気配がないし、やっぱりここはハズレで間違いないか…』


ドドドド…


『早く帰って美味い飯食いたい…』


ドドドドドド…ッ


『………しっかし』


ドドドドドドドドドドドッッ


「お待ちになってぇーーーー!!!ライ様ぁーーー!!!!」
『いつまで追いかけっこを続ける気だーーーー!!!!』
「ライ様がお止まりになってわたくしの腕に抱かれるその時までですわーーーー!!!!!」
『勘弁してくれええええええ!!!!』




00.Opening




事の始まりは数十分前。

今回ライに与えられた任務は、普段とても平和なとある街に最近何やら物騒な影がちらついている為それを確認、そしてもしイノセンスが関係しているようならそれの回収、というものだった。
特に期待せずに街に来て調べてみればアクマのアの字もイノセンスのイの字もなく、物騒な影というのはただの人間の気の迷いのせいであることが分かり、案の定すぐに暇になったライはこのまま帰るのも…と一応のパトロール半分、気分転換に街をぶらぶらしていた。
欠伸を噛み殺しながら、ふと目に留まったベンチに腰かけようと足を向けたその時、


「きゃあっ!!?バッグが…!!!」
『!!』


静かな通りに響いた女性の声は、すぐ後ろから聞こえた。
そのすぐ後に自分の横を黒い影が通り抜けようとするのを視界の端で捉えたライは、さっとしゃがむと回し蹴りで足払いをかけた。


「ぐっ!?」


ドサァッと勢いのまま地面に滑り込む男を抵抗できないようにしつつ逃げられないよう素早く抑え込めば、視線は片手に握られた可愛らしいファンシーなバッグへと向かう。
バッグは見るからに高そうな装飾がちりばめられている。
ライは観念した様子で体の力を抜いている男の手からそれを抜き取ると、わらわらと集まってきた人を避けつつ駆け付けた警官に男を引き渡した。


「その装飾は、黒の…!ご協力感謝します!」
『あ、いえ、つい反射で…』
「この男は最近この辺りでひったくりを繰り返していまして…とても助かりました。後は引き受けます」
「あ、あの…!」


感じの良さそうな警官にぺこりと頭を下げた時、ライの後ろから少し高めの女性の声が聞こえた。
振り返れば、太陽を受けて金色に輝くふわりとしたミディアムショートヘアの可愛らしい少女が恥ずかしそうにこちらを見上げて立っている。


「わたくしのバッグを取り戻して頂いて、とても感謝致しますわ!」
『ああ、キミのだったんだな。ほら、次は気をつけてな』
「…!」


ライがにこりと軽い笑みを浮かべてバッグを返すと、突然少女の顔が真っ赤に染まっていく。
え、と小さな声を漏らしたライの両手を、少女ががしりと掴んだ。
その目はキラキラと輝いている。


『あ、あの「ぜ、是非!」…え…?』
「是非、貴方様のお名前を教えて頂けませんか!?」
『へっ…?あ、ライ、です…?』
「ライ………ライ、様……素敵なお名前ですわ〜〜〜!」
『ぅおわぁ!?』


両手を掴んだままずいっと詰め寄る少女に、ライは思わず仰け反った。


「わたくしリゼルと申します!是非わたくしのお屋敷でお礼を…っあ、ライ様!!」
『悪い、そろそろ帰らないといけないんだ。次は気をつけろよー』
「ライ様…!」


上手いことリゼルの手を離すと、ライは片手をひらりとあげてから踵を返した。
スタスタスタ、とライが足を進める。


『……』スタスタスタ……
            スタスタスタッ

『…?』スタスタスタ
            テテテテテテッ

『…!』スタスタスタッ
            タタタタタタッ

『…!?』ダダダダダッ
            ダダダダダダッ


『な、なんで付いてくるんだ…!』
「ライ様!!!是非お礼を…!!」
『礼はいらないから…!!!』


……そして、ここからライとリゼルの冒頭での鬼ごっこが開始された。
かれこれ十分以上はこうしてこの街の中を駆け回っているが、諦めが悪いのかリゼルが止まる気配はない。


「ライ様ぁーーーー!早くわたくしの腕にお抱かれになってぇーーーー!!!」
『もう趣旨違ってきてないか!?……あああ…!どーすればいいんだこれ…!』


この際、あの子がなぜエクソシストである自分と対等に鬼ごっこをしているんだ、とか、なぜここまで走ってて全く疲れた様子が見られないんだ、なんて考えている場合ではない。
とりあえず本能的に分かることは一つ……止まったら終わりだ。


『こんなことなら探索部隊を早めに返すんじゃなかったな……誰でもいいから助けてくれ……』


もういっそのこと止まってしまおうかと、角を曲がりながら考えたらその時。


『……!あれって…』


曲がったその先に、見慣れた赤髪が見えた。
なぜこんな所にあいつがいるのか、なんてことはどうでもいい。
ライは走るスピードをあげた。


『ラァァァアビィィィィイイイイイイ!!!!』
「お、ライ!やっと見つけた、さ……へ?」


ラビはライに気づくと明るい顔で手をぶんぶんと振るが、すぐに気づいた異変に少し眉を寄せぽかんとした声を漏らす。
ライは勢いそのまま、ラビに飛びついた。


「!!?だっ、おま、えっ、ちょえ、えっ(だ、抱きっ…!?)」
『何も言わずに今すぐオレを乗せて伸だ、ラビ!!!』
「お、おう…!?」


ライの気迫に圧倒されたのか、ラビは素直に自身の武器であるイノセンスの発動を解きライを片手で支えた。


「しっかり捕まってろよ、ライ!伸ー!」
『っ、』


勢いよく上がっていく体で下を見ると、リゼルがライの名前を呼びながらこちらに片手を伸ばしているのが見える。
ライは自由な片手で顔の前でごめんのポーズをとると小さく手を振った。


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