少し歩くと、聖堂へ続く階段の最上段に顔を伏せて座るアレンが見えた。
聖堂からは相変わらず綺麗な歌声が響いている。
『綺麗な歌だよな』
「………」
隣を歩く神田は何を言うわけでもなく、アレンに近づいていった。
「何寝てんだ。しっかり見張ってろ」
「!」
神田の声にアレンは顔を上げずに反応する。
「あれ…?全治五ヶ月の人がなんでこんな所にいるんですか?」
「治った」
「ウソでしょ…」
「うるせェ」
いつもと同じ仏頂面で、神田がアレンの数段下にドサッと座った。
そんな二人に苦笑しながらライも最上段まであがってアレンの隣に腰を下ろす。
「ライ…?」
『治った』
「もう、ライまで…ていうか僕まだ何も言ってないじゃないですか」
ずっとアレンのそばにいたティムと神田のゴーレム。
神田のゴーレムは持ち主の元へと飛んで行き、ティムはライの肩へ止まった。
「コムイからの伝達だ。俺はこのまま次の任務に行く。お前はライと本部にイノセンスを届けろ」
前を見たまま言う神田。
ティムがライの肩を離れて未だに頭を上げないアレンの近くを飛ぶ。
「………わかりました」
「…………」
沈黙が続く。
顔を伏せたまま全く動こうとしないアレンの様子に、神田は一瞬アレンを見てまた前を向いた。
「辛いなら人形止めてこい。あれはもう「ララ」じゃないんだろ」
「二人の約束なんですよ。ララを壊すのはグゾルさんじゃないとダメなんです」
ライはララの歌声に耳を傾け、綺麗な空を見上げる。
「甘いな、お前は。俺達は「破壊者」だ。「救済者」じゃないんだぜ」
やっとアレンは顔を上げ、前に座る神田に視線を向けた。
「………わかってますよ」
『アレン…』
辛そうに言われた言葉にライがアレンの方を向けば、辛そうな笑顔が向けられた。
「でも、僕は…」
風が、吹く。
ティムが飛ばされ、アレンと神田は目を開いて聖堂を振り返り、ライは前を向いたままうつむいて目を閉じた。
「歌が、止まった…」
聖堂へと動き出すアレン達にはついていかずにライは座ったまま、ただ目を閉じていた。
「おい?どうした」
後ろでアレンへ声をかける神田の声が聞こえる。
ライは静かに目を開く。
「神田…それでも僕は誰かを救える破壊者になりたいです」
* * *
『え…マジ?』
あの後無事に回収したイノセンスはアレンが大事に保管している。
次の任務が入っている神田は何も言わずに足早に去っていった。
ライ、アレン、トマの三人はホームに帰るべく駅にやってきた、のだが。
「はい…汽車はしばらく遅れるようです…」
今度はちゃんと上級車両のチケットを買いに行き、ちゃんと人数分のチケットを持って戻ってきたトマ。
だが、同時に嬉しくないニュースも持ってきた。
「しょうがないですよ、この嵐ですから…ね?」
突然の嵐で、汽車がだいぶ遅れているようだった。
『んんー……なぁーんかやな予感がすんだよなあ…』
「…ライ…?」
嫌な顔をするライにアレンは苦笑しながら様子を窺う。
『ちょっとオレ先帰るわ』
「は!?」
急に言ったライに驚きを隠せないアレンとトマ。
「何言ってるんですか!外はすごい嵐なんですよ!?ていうかどうやって!?」
アレンがライに詰め寄った。
『水牙がいるだろ』
「で、でも危険ですよ!雷だって…!」
アレンが言った瞬間、空気を裂くバリバリというすごい音が近くで聞こえた。
『っ!?』
思わずびくりと肩を揺らすライに、アレンがぐっと詰め寄った。
「っ、ほら!だからしょうがないですけど、しばらく待ちましょうって!」
『で、でも…』
「なんでそんなに帰りたいんですか?」
『なんか早く帰らないといけないような気がして…』
「なんですかそれ…」
オレの予感は当たるんだ!と拳を握るライをアレンがまあまあと宥める。
それから、隙を見ては帰ろうとするライを押さえながらしばらく駅で時間を潰し、結局三人が列車に乗れたのは太陽が沈む頃だった。