「返せよ、そのイノセンス」
『ア、アレン……』
すぐ間近で放たれる禍々しいほどのオーラ。
じっとアクマを見つめるアレンの左腕は、ぼこぼこと音を立てながら蠢いていた。
ライはその蠢くイノセンスをただぼーっと見つめている。
「返せ」
アレンが鋭い目をアクマに向けた。
その殺気に導かれるようにアレンのイノセンスが形を変えていく。
「ウォ、ウォーカー殿の対アクマ武器が………」
「造り変えるつもりだ」
呆然とアレンを見るトマに、神田が冷静に言った。
「寄生型のやつらは感情で武器を操る。あいつの怒りにイノセンスが反応してやがんだ」
『でも、こんな…』
と、アレンがアクマの方へ飛んだ。
「バカ!まだ武器の造形が出来ていないのに…」
神田が慌てたように叫ぶが、次の瞬間、アレンの左腕は巨大な銃のようになり、その銃口はアクマへと向けられていた。
銃口付近に埋め込まれた十字架が光ると、いくつもの細い棒状の光がアクマに向けて放たれる。
「ギャア!」
アレンはしばらく撃ち続けてから攻撃を止めると、そのまま放たれた棒がいくつも重なってできた頂点に着地した。
呪われた左目が、砂の中を移動するアクマを捕える。
「そんなんで砂になってる私は壊せないよ〜」
おちょくるような声にアレンがイノセンスを向けた途端、そこから槍のようなものが飛んできた。
しかしそれはアレンではなくその足元の足場を崩して向こうの壁を破壊した。
「!!」
足場を失ったアレンを砂になったアクマがその体内に取り込む。
「ケケケ、捕まえた!もうダメだ、もうダメだお前!!」
ライと神田はじっとその様子を見つめた。
「何回刺したら死ぬかな〜?」
その言葉とともにアクマはアレンがいるであろう自分の体を変形させた右腕で刺し始めた。
笑いながら続けるアクマを見てトマが顔色を変える。
と、突然金属同士がぶつかる音が響いた。
「ガキ…?」
同時に、砂の中から左手でアクマの攻撃から自分を庇いながらアレンが飛び出した。
アクマの右手の先端部分は、バキンと音を立てて簡単に砕けた。
「槍が…っ」
『!アレンの武器が変わる…』
アレンの銃のような左腕はその銃口がだんだんと狭まり、そこから一本の光の棒が突き出た形になった。
そのままアクマに斬りつけるアレン。
「あ!砂の皮膚が!!」
このアクマの能力である写し紙は真っ二つになって剥がれ落ち、本体が露わになった。
「これで生身だな」
アレンはにやりと笑いながら着地すると、地面に落ちたアクマへ銃に変形させたイノセンスを向けた。
「写し取る時間はやらない。ブチ抜いてやる」
「まだお前の腕が残ってるもんね!」
アレンが撃った衝撃波とアクマが写し取ったアレンの腕がぶつかる。
「グゾルは…ララを愛していたんだ。許さない!!」
アレンの気にあてられるように、アクマの腕はボロボロと崩れていく。
「く、くそっ、何でだ!同じ奴の手なのに…なに負けそうなんだよぉ…!!」
『テメーのは限界なんだよ。本物なめん…!』
「!?」
突然アレンが血を吐き、左手の発動が解けた。
その場に崩れるアレンに、いいチャンスだとアクマが目をぎらつかせる。
「もらった!!」
『っ!』
「…チッ」
アクマの攻撃がアレンに当たる寸前、その攻撃はイノセンスを発動させたライと神田によって止められた。
「!?ライ!…神田!」
『大丈夫か、アレン』
「ちっ」
ライの首筋を赤い液体が伝い、神田の胸に巻かれた布が赤く染まっていく。
「この根性無しが…こんな土壇場でヘバってんじゃねェよ!!あのふたりを守るとかほざいたのはテメェだろ!!!」
『っおおう……』
くわっとアレンを睨みつけて怒鳴る神田に、アレンは肩を跳ね上がらせ、すぐ隣にいたライも軽くびっくりしたように神田を見た。
「お前みたいな甘いやり方は大嫌いだが…口にしたことを守らない奴はもっと嫌いだ!」
「は…は、どっちにしろ…嫌いなんじゃないですか…」
『でも結局助けに来てるんじゃん』
「…うるせェ」
にやにやと笑うライの後ろで弱々しくも呆れたように笑うアレンは、少し息を落ち着かせてから口元をぬぐった。
『アレン、いける?』
「…はい。別にヘバってなんかいませんよ。ちょっと休憩しただけです」
「…………いちいちムカつく奴だ」
その言葉が合図かのようにライがイノセンスごとスッと体を後ろに引くと、すかさず神田がアクマの手を切り落とした。
「!!」
そのまま三人はイノセンスを構える。
『「「消し飛べ!!」」』
三人のそれぞれの技がアクマに襲いかかり、その体を包んだ。
「エ…エクソシストがぁ〜〜〜〜!!」
暗い街の一角で巨大な爆発が起こる。
「エクソ…シ…スト」
爆発の中で消えゆくアクマが呟くように言った。
倒れているアレンと神田、近くに座り込むライのそばにイノセンスが落ちてきた。
「生きてて…ください。もう一度、ララに…」
アレンが発動を解いた左手をイノセンスへ伸ばした。