モノクロ | ナノ


「すみません…トキハ殿…」
『大丈夫か?』


まずトマを支えながら水牙から下ろす。
そのまま近くの壁へもたれかけさせるようにして座らせた。
続いて神田を水牙から下ろし、その近くに寝かせる。


「ライ、これ枕に使ってください」
『……あぁ』


すると今までララ達と喋っていたアレンが、振り向いて自分の団服のコートをライに手渡した。
一瞬迷ったライだが、すぐににこっと笑ってお礼を言いながら受け取り、丁寧に畳んで神田の頭の下に敷いた。


『トマ、なんかあったら呼んで』
「はい」


ティムと神田のゴーレムが神田を見守るように神田の側に止まる。
それを微笑ましく見てから、ライはアレンの方へ移動した。


「あの日から80年…グゾルはずっと私といてくれた」


神田の方から飛んできたティムがアレンの肩に止まる。


「グゾルはね、もうすぐ動かなくなるの…心臓の音がどんどん小さくなってるもの」
『……』
「最後まで一緒にいさせて。最後まで人形として動かさせて!お願い」


必死に言うララに、ライは目を伏せた。


「ダメだ」


突然聞こえた声にライたちが振り返ると、神田が上半身だけ自力で起こしてこちらを見ていた。


『ユウ…!』
「!」
「その老人が死ぬまで待てだと…?この状況でそんな願いは聞いてられない…っ」
『ちょ、起きるなって!』
「今すぐその人形の心臓を取れ!!」
「!?」


困ったような顔をしてしばらく動かないアレン。
ライは痛む体を抑えながら慌てて神田の側へと近寄った。


「俺達は何のためにここに来た!?」


そんなアレンに神田はさらに噛み付くように叫んだ。


「…と、取れません。ごめん、僕は取りたくない」
『……あ…!』


途端にアレンへ団服のコートが飛んできた。


「そのコートはケガ人の枕にするもんじゃねぇんだよ…!!エクソシストが着るものだ!!!」


ふと、神田がライの方を向いた。
ライは黙って神田を見つめる。


「…ライ、早く取れ」
『……』


アレンがはっとしてライを見るが、ライはゆっくりと首を振って力なく笑った。


『…悪い、オレもとれないや』


その言葉に、アレンはほっとしたように息を吐くが、神田は舌打ちをするとバッと起き上がった。
ライは思わず手を伸ばすが、神田は下に敷いてあった団服を羽織るとライとアレンの横を通り過ぎていく。


「犠牲があるから救いがあんだよ、新人」


神田は六幻の先をララに向けた。


「お願い、奪わないで…」
「やめてくれ…」


グゾルは庇うようにララを抱きしめる。


「じゃあ僕がなりますよ」


その時、団服を着たアレンが六幻とララの間に割り込んだ。


「僕がこのふたりの「犠牲」になればいいですか?」


六幻の先はアレンの着る団服のローズクロスに向けられている。


「ただ自分達の望む最期を迎えたがってるだけなんです。それまでこの人形からイノセンスは取りません!僕が…アクマを破壊すれば問題ないでしょう!?」
『オレもやるよ。だから、この子からイノセンス取るのはもう少し待ってくれないかな』


ライがアレンの横に立ち、じっと神田を見つめた。
アレンは一度ライに目を向けると再度神田を見据える。


「犠牲ばかりで勝つ戦争なんて、虚しいだけですよ!」
『っおい!?』


アレンの言葉を聞いた途端、神田がアレンを思い切り殴りつけた。
そのまま後ろに倒れこむアレンだったが、その反動で神田も足元がふらついて地面に膝をつく。


「神田殿!!」
「とんだ甘さだなおい…可哀相なら他人の為に自分を切売りするってか…?」


ライが慌てて二人に合わせてしゃがみこむ。


『あまり動いたら「テメェに大事なものはないのかよ!!!」…!』
「大事なものは…昔失くした。可哀相とかそんなキレイな理由、あんま持ってないよ。自分がただそういうトコ見たくないだけ、それだけだ」


アレンが辛そうに俯く。


「僕はちっぽけな人間だから、大きな世界より目の前のものに心が向く。切り捨てられません。守れるなら守りたい!」


そこから、すべてがスローモーションのように見えた。
巨大なかぎ針のようなものがグゾルとララを貫き、そのまま二人を砂の中へと引きずり込んでいく。
アレンとライが手を伸ばすが、それは届くことはなかった。


『…くそっ!』
「奴だ!!」


神田が言うと同時に周りの砂がうごめき始める。
そして後方から、何かが砂の中から勢いよく飛び出す音が聞こえた。
三人が振り返るとそこには、


「イノセンスもーらいっ!!!」


グゾルが力なく突き刺さった右手の先にイノセンス、左手にはイノセンスを抜かれてただの人形となったララをぶら下げたレベル2のアクマがいた。
アクマはグゾルとララを無造作に地面に落とした。
ライは自身から血の気が引いていくのを感じた。


「ラ…ララ……ララ…」


グゾルの下の砂に血が滲んでいく。
力を振り絞ってララに手を伸ばすが、人形となったララはもう反応することなはかった。


「ほぉー、これがイノセンスかぁ」


アクマは右手の先に突き刺さったイノセンスを眺めている。
呆然とアクマを見ていたライは、突然隣からのぴりぴりとしたオーラにばっと横を向いた。


『…アレン…!』


そこでは、アレンのイノセンスである左腕を中心に、砂煙が巻き上がっていた。



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