モノクロ | ナノ


ある朝、ライは自室のドアが叩かれる音で目を覚ました。


「おーいライ!起きてるか!」
『ん、んー…寝てますぅー…!』
「返事してんじゃねぇか!任務だぞ!」


任務という言葉にうっすらと目を開けのろのろと起き上がれば、寝癖も気にせずドアを開けた。
立っていたのは沢山の書類とダンボールを抱えたリーバーで、少し慌てているようにも見える。


「起こしちまって悪いな。起きたばっかでアレだが、なるべく急いで室長んとこ行ってくれ」
『ういー…』


じゃあな、と言いながら忙しそうに去っていくリーバーを見送って、ライは一旦自室へ戻った。
先程よりは覚醒した頭で寝癖を整えて身支度をする。
ベッドを出てから、年頃の女の子にしては早い時間でライは廊下へと出た。




02.魔女の棲む村




『コムイさーん』


司令室へ入りながらそこの主の名を呼ぶが、やはり返事は無い。
辺りを見回すライの視界に入るのは壁一面の膨大な資料、そして、床にまで散らばったたくさんの紙たち。
その中ライはコムイを探すが、そこにコムイの姿はなく……と思うと、床と同じように紙が散らばったデスクでコムイがいびきをかいていた。
ライが近づくが、起きる気配はない。


『おいこら起きろシスコン』
「ぐおーーー」
『ったく……』


ゆさゆさと肩を揺さぶってもその頭を軽く殴っても起きない。
ライは自身の口端へ手を添えた。


『そーいえばこの間リナリーが知らない男と歩いて「リナリィィイイイイ!!!どこの男なのお兄ちゃんに説明しなさぁぁあああい!!!」……はよ、コムイさん』


片腕をデスクの向こうへと伸ばし叫びながら起きたコムイは、自分の腕の先に立つ呆れ顔のライを見つけるとぱちくりと瞬きをした。


「あれ?ライちゃん…?」
『リーバーさんに、任務だからコムイさんのとこに行けって言われて来たんだけど』
「ああ!ごめんね、朝早くから」


と、コムイはライの後ろを覗くように頭をずらした。
ん?とライも後ろを見るが、特に変わった様子は無い。


「神田くんはまだ来てないの?」
『や、来た時からずっとオレ一人だけど。もしかして任務ってユウと一緒?』
「そうだよ。今回の任務は二人で行ってもらう」


コムイの言葉にライの顔はぱあっと明るくなった。


『あいつと任務で一緒になるの久しぶりだ、楽しみ!』
「ここの所ライちゃんは単独任務続きだったからねー、たまには誰かと一緒がいいかなと思って」


ボクって優しい!と頬に手を当てきゃっきゃするコムイに、ライは今回ばかりは感謝した。
実際コムイの言う通り最近のライは単独任務が続いていて、そろそろ誰かと任務に行きたいと思っていたところだ。
…と、司令室のドアが静かに開いた。


「あぁ、神田くんかぁ!悪いね、朝早くから」


ライの向こうにドアを後ろ手で閉める神田を見つけたコムイは、ひらりと片手を振る。
神田はこの場にライがいることに少し目を開くが、すぐにいつもの仏頂面へと戻った。
自分の横に神田が立ったところで、ライは改めてコムイへと向き直った。
コムイの目は先ほどとは打って変わって、刃物のように鋭いものになっている。


『いつもこうしてりゃかっこいいのになぁ…』
「やだなぁライちゃん、ボクはいつだってかっこいいんだよ!」
『はいはい』
「…とまあ、お話はこの辺で」
「……今度の任務はどこだ」
「ドイツだよ」


神田の声に再び目を細めたコムイは僅かに口端を上げ、壁にかけてある地図を指した。


「ドイツ北部にある、森林地帯のダンケルンという村なんだが、最近、その村に行った人が帰ってこないらしいんだ」


その森林地帯は『帰らずの森』という噂がたち、教団はイノセンスによる奇怪現象を怪しんで二日前に探索部隊を三人向かわせた。
しかし、彼らはその森の手前にあるミッテルバルトという村から目的地に向かうという連絡を受けてから消息不明らしい。


「これが細部の地図になる」


コムイが本の山の上に一枚の地図を置いた。
二人の最初の目的地はミッテルバルトだ。
そこから森の中の一本道を進めば、最終目的地のダンケルン村に着くらしい。
コムイがじっと地図に目を落とした。


「この森がどうにも引っかかるんだけどね。古来、森には不気味な伝説がつきものだから……。まあ、そんなことはともかく、森を通る時は気をつけて。何かがいるかもしれない……って、どうしたんだい?ライちゃん」


静かにコムイの話を聞いていたライだったが、話が進むにつれてどんどん俯いていき、終いには拳を握りしめてわなわなと肩を震わせている。
ハテナを浮かべるコムイと神田だったが、神田はすぐに、あぁ、と納得したように声を上げた。


「そういやお前、この手の話は苦手だったな」
「この手の話?……あぁ!そうか、ライちゃんはお化けとかだめだったっけ?」
『…さっきの感謝を返せコムイさん……』


恨みがましく睨むライへ、まあまあとおちゃらけるコムイ。


『オレの命もここまで、か……くっ…』
「変なこと言ってんじゃねぇ、さっさと行くぞ」


項垂れたライに神田は呆れた視線を投げた。


「では、二人共。今すぐドイツに向かい、探索部隊の救出に当たってもらいたい」
「わかった」
『くそーコムイさんめ末代まで呪ってやる…』
「苦手なやつが呪えるかよ」
『うおー………』


ライは神田に引き摺られるようにして司令室を後にした。



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