「何が…起こった?」
白マントの仮面の人物は、ライ、そしてバクとフォーを守るようにマントを広げている。
「これは…?俺たち助けてくれたのか!?」
「何だ?また変なのが出てきた…」
不安そうに見るフォーに、頭だけ振り返ったライの口元が弧を描く。
その口が、"大丈夫だよ"と動いた。
「…ライ………ウォーカ…?」
「邪魔だよ。そこ全部消えな」
「!!」
アクマが水面を蹴り、こちらへ向かってくる。
ライが跳ぶと同時に、仮面の人物はマントを翻し水ノ揺籃によって包まれた二人を更に包んだ。
そこへアクマがレーザーの刃で斬りかかるが、それはマントによって二人に届くことは無かった。
「分解!」
「!」
アクマが口を大きく開ける。
そこからいくつもの白い触手のようなものが飛び出すと、二人の目の前の水とマントの壁に張り付いた。
カッと眩しい閃光が溢れる。
「わああっ…………あれっ?なんともない…?」
フォーを守るように抱えながら目を閉じたバクは、いつまでたっても痛みも何もないことに恐る恐る目を開けた。
「大丈夫だ…よ、バク」
フォーが薄らと笑みを浮かべる。
「ウォーカーのイノセンスだ…」
その白いマントを纏った仮面の人物は、アレンのイノセンス。
彼はアクマへその身を詰め、仮面の目をにやりと歪ませた。
「コイツ…!」
『天狼(テンロウ)』
「!?」
少し離れたところから届くライの声。
いつの間にかアクマの背後にいたライは、先程と同じように刃の先を水面に沈めていた。
水面からいくつも立ち上る、狼を象った渦潮。
それとアレンのイノセンスが放つたくさんの糸のようなものがアクマの身体中を突き刺し、その身をバラバラにした。
「あがぁあぁァあァア!」
仮面が二人の元を離れ、飛んでいく。
落ちた先は、水面から突き出された、ひび割れたアレンの右腕。
仮面は右腕に吸収されるように落ちていき、一度水の中へ沈んだ。
そしてすぐ、腕の下の方から光が溢れていく。
ボロボロだったアレンの腕はみるみるうちに治り、機械のような、人形のような細腕へと変化した。
"行コウ…"
バクに喜びの表情が浮かぶ。
"共二…"
その手に引っ張られるようにして、ズブズブとアレンが水面から姿を現した。
仮面のフードがついた真っ白なマントを身につけたアレンが、ゆっくりと目を開く。
そして横に立つライへ、にこりと微笑んだ。
ライも同じように優しく笑う。
「貴様らぁ…」
半壊したアクマが叫び声と共にアレンとライへ迫る。
真っ直ぐ跳んでアクマを飛び越えたアレンは、サッと身を翻し、シンプルなオートメイルのようになった左腕を構えた。
「哀れなアクマの魂よ」
アクマが振り返った頃には、もう遅い。
「安らかに眠れ」
完全に復活した左腕が、アクマを捕らえた。
「…教えてください、アクマ」
アレンの攻撃によって頭と胸だけになったアクマは、杭のようなものを打たれその場に拘束された。
その首にはライのイノセンスの切先が当てられている。
「誰に、何処へ、僕を連れてくるよう言われていたんですか?」
『オレも聞きたいな。誰からオレのことを聞いた?』
「"ダレに、どこへ"…?くはは…助けテくれるナら、答エるよ!」
「……、いいですよ」
『えっ』
「教えて?」
『(……なんかアレン、Sっ気増してる…?)』
にっこりと笑うアレンに、顔をひくりとさせたライ。
プッ、とアクマが吹き出した。
「あは、ははは!そんな気ナイくせに!そんなキ無イクセに!この道化役者!!」
アクマがアレンへと詰め寄った。
天之真神の切先がズッとその体に埋まるが、アクマは構うことなくニタリと笑う。
「くくくっ、ノア様だ!ティキ・ミック卿だよ!!」
そしてアクマは次にライの方へ頭を動かす。
「お前もそうダ!だがな、お前ノハ伯爵様の命令ダ!」
『伯爵の…命令?』
「お前はいツカ、伯爵様のモノとナル」
「前にも言いました。ライはモノではありません。彼女は僕達の大切な仲間です」
『アレン…』
体を引いたアクマはけたたましく笑い声を上げた。
「くっはハハはは!!そんなコトを言っテられるノモ今のウチ!江戸じゃ今ゴロどうなっテルかなァ!?オマえらの仲間!!あそコにハ、ミック卿以外に四人のノア様ト伯爵様ガイル!!」
アレンが目を開き、ライがぐっと眉を寄せた。
「アァれ〜〜〜〜ん?ヤバイんジャなイ?」
と、アレンの左手の人差し指が、アクマの眉間へスッと添えられた。
ありがとう、そう言ってアレンが左腕を真っ直ぐに下ろす。
「ソコニある……ノアの方舟に、乗っテイケ…アれん、ライ…」
水面から伸びる、デジタル調の不思議な何か。
その周りを黒い蝶がヒラヒラと舞う。
「空間を超エテ、江戸二、イケルヨ…」
「ーーー…どうしてですか?」
「ドウ、シテ…?ノア様ノ命令ダカラダヨ」
アクマを縦に切り裂いた所から、左右へ光が伸びる。
「イヤ…ドウダロウナ…」
それは光の十字架のような形になり、アクマの身を包んだ。
「ナンダカネ、気分が…スゴクイインダ…」
最期に遺されたのは、優しい声。
パシュン、とアクマが消滅した。
「おやすみ」
『…………』
「ウォーカー、ライ」
それを見届けた二人に、後ろから声がかかる。
振り返ったアレンとライは、バク、そしてフォーに、にっこりと笑いかけた。
これが、アレン・ウォーカー、そしてトキハ・ライが、自身のイノセンスの本当の姿を手に入れた瞬間であった。
記されたその名は、
"天之真神(アメノマカミ)"
"神ノ道化(クラウン・クラウン)"