持ち上げた布地で自身の下半身は見えないが、それでもヨハネスに下着姿を晒すというこの現状が既に頭の中で限界を訴えている。

「今からやることは実技演習と思えば良い」
「えっ・・・や!?」
しっかりと覚えておけ、そう言いヨハネスの大きな手が下着の中へ滑り込んだ。

瞬間、指が何かを摘み下肢から今まで感じたことの無い痺れが走った。
「っあ?!や・・・ッ!」
何かが溢れてくる感覚に、思わず膝の力が抜けそうになるのを必死に堪える。
「・・・ふ、う・・・っ・・・」
「・・・ケイト」
「あ・・・っい・・・」
前屈みになった状態から顔だけを上げ、やっとの思いで返事をするが、言葉にならない。
ヨハネスは、そんな状態を見かね、空いている左手を膝に置き、言った。


「私の膝の上に跨がりなさい」


言葉を失うとは正に現状を示すのだろう。

「・・・っな、なに、を・・・?」
「そう前屈みになられては何もできないからだ」

淡々と告げられるその言葉は、あまりにも酷に感じた。

「・・・・・・っ・・・・・・」

合理主義のヨハネスが言うのだ。
きっと、いや確実に終りへの近道は、その一択であろう。
けれど同時に、それは自分にとっての遠回りであることは自覚している。

「あ・・・う・・・っ」
そうこう考えている間にも、体の中では何らかの刺激を求め、それが熱になっていく。

「二度も言わせる気か」
「・・・っ!?」
聞き慣れた、怒気が含まれた声音に反射的に肩がはねた。
しかし、体は動かない。何が邪魔をするのだろう。
羞恥?恐怖?・・・何に対しての?

「埒が明かないな」
「・・・ッ?!」

考えを張り巡らせているうちに、ヨハネスが動いた。
両脇の下に手を差し入れ、胸回りを鷲掴む勢いでそのまま持ち上げられ、驚いたのも束の間、気がつけば、反射的に開いた両腿をヨハネスの両膝によって更に大きく開かされた体制をつくられていた。

「・・・ッや?!よ、ヨハネス・・・!これは・・・っ」
「・・・お前に羞恥心など邪魔なだけだ」
「・・・・・・!!」

ーーー違う。
怖いわけでも、ましてや恥ずかしいだなんて甘い感情でもない。

「・・・い・・・」
「・・・今度は何だ」

これは・・・この感情に何て名前をつければいい?
いや、名前だなんてものは分からない。・・・けれど。

「・・・ッ、い・・・や、だ・・・!」

一言。
ただ一言、そう零すとまるで堰を切ったように大粒の涙が頬を伝った。

「・・・や、です・・・!」

それしか、分からない。それしか、言葉が出てこない。

「・・・お、ねが・・・っ・・・!もう・・・ッ!!」

"許してください"。
そう言おうと、口を開いたときだった。

「・・・・・・ケイト」
「・・・っん・・・?!」

優しい声と共に、唇に温もりが触れた。

「えっ・・・んうッ?!」
ぬるりと、咥内に意思のもった柔らかいものが入り込んだ。
それは次第に歯列をなぞり、行き場の無いケイトの舌を優しく絡めとった。
「・・・っふ、う・・・」
薄く目を開ければ、ヨハネスと目が合う。
「あっ・・・よは、んっ・・・」
少し前とは打って変わって優しく腰を撫でられ、体の力が抜けていくのが分かった。

「・・・・・・すまない」

ポツリ、ヨハネスが呟く。
その声は、あまりにも弱く儚いものだった。

「・・・・・・少し、いや今まで大分、無理をさせてしまったな」
「・・・・・・え?」

ーーーこの人は・・・何を言ってるの?
今まで聞いたことの無いヨハネスの声に目を見張る。
が、ヨハネス自身もまた、見たことの無い表情を浮かべていた。

「人類の未来・・・エイジス計画には、どうしても・・・ケイト、お前の力が必要なんだ」
問い掛けるように、乞われるように、ゆっくりと紡がれる言葉は、浸透するかのように心の中に落ちていった。

「とは言っても、今のお前はあまりにも不安定すぎる・・・分かるか?」
「・・・はい・・・」

常日頃から言われている事を思いだし、下を向く。
けれど、いつもとは違い、そこにあるのは優しく背中をさする、ヨハネスの大きな手。

「今はまず、お前の成長を見守り、助長しなくてはならない」
「・・・・・・」
「・・・人類の未来の為、どうか・・・その力を私に貸してくれ」

ヨハネスが、顔を覗き込む。
今まで、散々に蔑まれ、無感情の瞳で射抜かれ、その口で罵られてきた。

「・・・・・・」

けれど、その全てを忘れさせるくらいに目の前にいるのは"あの男"の面影など感じさせない、ヨハネス・フォン・シックザールであった。

ーーーこれが本心なのか、そうじゃないのか・・・今の私には分からない。

「・・・ヨハネス」

ーーー・・・だけど・・・。


「・・・貴方の、望むままに」


ケイトは、静かに震える唇で口づけをした。

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