今回は特別だ、椅子に座るヨハネスが隣に来るよう手招いた。
支部長室は、元来、静かな部屋ではあるが今では自身のせわしなく鳴り続ける心臓の音でさえ目の前で座っている相手に聞こえてしまいそうなほどだった。

既に身体を支えているはずの脚の感覚は無いに等しく、全身は自分の意に反して小刻みに震えていた。

ヨハネスが、脚を組んだまま椅子ごと、こちらに向く。
「ケイト。今の自分の状態が分かるか」

ーーー今の、私の・・・状態・・・?

それは外的なものだろうか、それとも内面的要因を指す言葉だろうか。
ヨハネスの真意を汲み取ることができない。
いつもならば、造作もないことが、今のケイトには出来ない。

「・・・正常・・・では、ありませ、んっ・・・」

身体の奥底から何かが込み上げてくるような感覚に、言葉さえも絶え絶えになる。

「・・・正直、フェンリルの幹部がこういった物を手にしているとは・・・誤算だった」
「・・・・・・・・・・・・」

今までの、実験もとい訓練を思い返してみる。
サリエルの毒すら瞬時に中和する、この身体はある程度の毒物ならば目に見える効果など、これと言って無かった。
・・・そう結論づける事が出来るくらいには、様々な毒を取り込んできたのだ。

「・・・訓練を、明日の予定に・・・組み込み、ますか・・・?」
過去を思いだし、別の震えが襲う。

しかし、デスクに肘をついたままのヨハネスは、ケイトを見上げ、いや・・・と呟いた。
「その必要は無い」
「・・・え?」

ーーー・・・なんで、どうして?意味が分からない。
これ以上・・・もう、私は何もできない。
訓練以外に何をしろと言うのか。・・・一人では、何も、できない。

考えれば考えるほど、分からない。
するとヨハネスは、ケイトを真っ直ぐに見据え、言った。

「服を脱げ」

ーーー・・・は。

「・・・え・・・あの・・・?」
「なんだ、聞こえただろう」

いま聞こえた言葉は空耳だろうか、と自分の耳を疑ったところで繰り返された。


「いま、着ているその服を、脱げ」


ーーー・・・意味が、分からない。

「・・・な、ど・・・何故、ですか・・・?」
いま身につけている服は、いつもの肩紐の無い白いワンピース。
つまり、脱いでしまえば残るものなど下着の他は無い。

「脱ぎたくないのなら、そのままでも私は構わない」

ヨハネスは、こちらを見つめたまま動かない。
ーーー私が、自らワンピースの裾を手繰り上げるのを待っているから。

今一度、ヨハネスの言葉を自分の中でかみ砕く。
・・・つまりは、今すぐに解毒を行うということだろうか。
それには、足首を僅かに覆い隠す、この白いワンピースが、邪魔だという。

そこに、一切の感情など、無い。


「・・・わ、わかり・・・ました・・・」


震える声で、震える手で、目の前で自身を見つめる男にむかって。

静かに、身に纏う白をまくし上げた。

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