「ケイト」

ーーー低く柔らかい声は暗闇のなかに溶け込み、ゆっくりと私を蝕んでいく。
その毒は、指で、口で、目で、彼の全てを以てして私の中に注ぎ込まれ、器は毒が満たされる時を待つしかない。
黙って、ただその時を待つだけしか出来ないのだ。

「今日は君に会わせたい子がいる」
「子・・・ども?」
「ああ」

人と会うのは、いつぶりだろうか。
まだ見ぬ相手に胸が高鳴った。
最近は、この部屋から出ることはおろか、食べ物すらまともに食べていない。・・・そのせいか立ち上がった途端に眩暈が襲い、視界が揺れ、その場に座り込んだ。

「・・・ああ、そういえば食事をやっていなかったな」

返事をしようとしたが、胃液が込み上げてくるような感覚に口を開けることも、頷くこともできなかった。

「この部屋で吐かれても面倒だからな・・・」

この男はどこまでも・・・と怒りを覚えたことも最初だけだった。
そう、彼は最初から何も変わっていない。変わったとするならば、自分・・・いや、そこに自分の意思など存在しなかったのだから、変えられた、というほうが正しいのかもしれない。

「支給品の新作レーションだ、食べなさい」
「・・・がと、ございます・・・」

鈍く痛みはじめた頭を体全体で支えるようにして、吐かないように一口、一口と頬張っていく。

「次の実験は一二〇〇だ。その結果次第では、食事の時間になる」
「・・・はい」
「・・・なぜ三日も食事を与えられなかったか、分かるな?」



ーーー三日前。

ケイトの"血の力"を使い、フェンリル反政府組織が多く住む外部居住区にアラガミの群れを集めろ、という命令が下った。
なんでも、アーク計画を潰そうとしているらしい反政府組織は、ゴッドイーターの任務中に別のアラガミを誘導させたらしい。
そんな不安要因にしかなり得ない者は、邪魔だと。
ヨハンは無論、秘密裏にケイトに命じた。
"アラガミにとって捕喰対象にならず尚且つ統率能力をもつ者"に唯一人、該当するケイトに。



ーーー私が、この世界で生きていくためにはヨハネスの命令に従うしかない。
「二度と私に隠れて対象を逃がそうとするな」


・・・子どもがいた。まだ小さな、子どもが。
小さな声で、助けて、と。自分は何もしてない、と。
それを聞いた瞬間に自分でも気がつかないほど、反射的にアラガミの進路を変えていたのだった。


「・・・はい・・・」

ーーー間違いは、犯していない。
ヨハネスも、私も。

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