「おっ、やっと来たな」
煙草を揺らしながら喋るリンドウは、どこか可笑しそうな様子で手を挙げた。
「お待たせしましたー。オヒメサマ、連れて来ましたよ〜」
「・・・・・・」
背後からの無言の圧力に気がつかないふりをし歩を進める。
正直、突き刺さるような視線が痛い。
「よし、じゃあブリーフィング始めるぞ」
そう言い、リンドウは宙を仰いだ。
ーーー今日の任務は、ヴァジュラとコンゴウ、多数の小型アラガミ。
場所は贖罪の街、突如として発生したアラガミの群れを討伐せよとの内容だった。
昨晩、ヨハネスの命令で遅くに出撃していた結果だろうか。
いつもより個体数が多く思えた。
「・・・なんかさ、最近アラガミ増えてない?」
「・・・アラガミは毎日増えてると思うけど」
コウタの小さな言葉に返せば、そうじゃなくて、と返ってきた。
いや、そういうことでしょ。
「極東支部周辺、って言っても距離はあるけど・・・ここ最近で確実に増えてるんだよ」
え、なに、コウタってベテランなの。と言葉を飲み込む。
コウタでさえ気がついているということは、勘の鋭いリンドウのことだ。
無論、気がついていることだろう。
ーーーそれか、既に動き出しているか、だよね。
「まあ、減ってはいねえよなあ」
当たり障りの無い同意に満足したのか、コウタは相槌をうち再びリンドウに意識向ける。
「んじゃあ、パッと行ってパパッと帰ってくっかあ」
ブリーフィングが終わり、第一部隊がゲートへと向かうなか足取りは同じく意識は一人、別にやった。
ーーー・・・もしも、リンドウが動き出していれば。
ヨハネスにとって現状はかなり厳しいものと言えるだろう。
あの人は不確定要素となる者には容赦がない。
そんなことは、きっと誰より理解している自分自身が危惧しているのだ。
きっと、リンドウが消されるのは、そう遠くない。
「・・・ケイタ」
「・・・んだよ、ソーマ。相変わらず気配うっすいな」
「・・・・・・戻ったら話がある」
「え?なに、オレジツハオマエノコト的な告白?」
「・・・・・・・・・・・・」
「あ、ハイ。すんません。睨まないで」
最近はソーマの部屋に行くことが多い。
毎回、何かを話しだそうとするが決まって核心には触れてこようとしない。
彼なりに考えがあるのか、たまに彼自身に呼ばれることもあるが、固く閉ざされた口が開いたことは今だかつて一度も無い。
多分、何かに気がついているけれど、あまりに小さなそれに触れることを臆している。そんなところだろう。
けれど、それで良い。
それで、良いのだ。
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