「うぃーっす」
「お前ね・・・上官殿に対してもっと別な挨拶ないのかー?」
「っざまーす」
「・・・はいはい、おはようさん」

朝のエントランスにはステンドグラス越しに様々な角度から日差しが差し込み、寝不足且つ寝起きの目には少々つらいものがあった。

「おっ、ケイタ。はよー。なに、眠いの?」
能天気な声に振り向けば、そこには能天気な顔をした能天気な格好の能天気な人物。
「うはよー。コウタはいつにも増してコウタだなー」
「・・・いつにも増してオレって、なに・・・?」
不思議そうな表情を浮かべるコウタをそのままに、そういえば、とリンドウを見やれば、ほぼ同時に名前を呼ばれた。

「そういえば・・・近々、新人がうちに来るらしいんだ」
「オスですか?はたまた女の子ですか?女性ですか?」
すぐさま、矢継ぎ早に質問をぶつける。
この女好きというポジショニングとしては、聞いておかなくては。
・・・いや、まあ単純に女の子は好きだけれど。

すると、リンドウはため息と共に呆れた様子で肩を竦めて見せた。
「・・・お前さんはホントに・・・」
「個人的にはサクヤさんの様な女性が好みなんすけど」
「いや誰もお前の好みとか聞いてないから!」
すかさず、コウタに突っ込まれる。
さすがコウタ。コウタなだけある。
「そこまでは分からんが・・・まあとにかく、仲良くしてやってくれ」
「ういーっす」
そこまで言うと、リンドウは持っていたシガレットケースから再び一本を取りだし、くわえた。


ーーーそろそろ・・・あの子が来る時期か。

ヨハネスが以前、言っていたことを思い出す。
瞼を擦りつつ、横目でリンドウを見た。・・・あの人は、リンドウを消すつもりだろう。
この飄々とした態度も、たまに頭を撫でてくる右手も、煙草の臭いも・・・すべてが消される。
不意に沸き上がってくる悲しみと苦しみを振り払うように被りをふる。
リンドウは、踏み込んではならない場所まで来てしまったのだから。

「っにしてもソーマ遅いなー」
既に煙草を吸い終えたリンドウの呟きに、液晶のデジタル時計を見やる。
時刻は既に8時45分。いつもならば降りてきている時間だ。
「まだ寝てるのかしら?」
「あ〜・・・よし、ケイタくん。様子を見てきなさい」
急な会話の方向転換に一瞬ついていけなかった。
「ん?・・・は?!え、なんで俺?!」
「なんだ、お前ら仲良いだろ?」
たまに喋ってるの見てるんだぞ、などと言われてしまえば返す言葉も無い。
そうだ、この男は周りをよく見ている。
「・・・・・・はあ・・・・・・」
重い腰をあげ、エレベーターへと向かう。

「なんならお姫さんには王子のキスで起こしてやればいい」
後ろで聞こえた笑い混じりのその言葉に、本当は自身の正体に気がついているのではないだろうか、などと焦りを覚える。
「いや、俺は王子の使者なんでー。んじゃあ、いってきまーっす」


「・・・俺が王子なのか・・・まいったなあ・・・」
「あら、随分と年齢が上な王子様なのね?」
「オウジサマってよりかはオジサマですよね」
「・・・お前ら、ヒドくないか・・・」

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