Chapter:Y


カウル=アル=エスタシオン
策略家にして、エレインド家当主のリオナの使用人兼世話役
五大公爵家以外の要人と言えばこの人、と言われるほどに有名な彼には弟がいた
彼と弟はあまり一緒にいることは目撃されていなかったため、彼の弟が「カウルの弟」ということすらあまり知られていなかった
しかも彼は本名を誰にも名乗らない
カウルですら彼のことを本名で呼ぶことはしなかった


《ハル》
彼はそう名乗り、そう呼ばれていた


〜・*・〜・*・〜・*・〜

会議とは全く関係ない町
軽快な足取りの少年が歩いていた

彼の姿を一瞥し、少女と思うのは仕方のないとも言わざるを得ないほど可愛らしい容貌
口さえ開かなければ、誰でも一度は少女と間違えてしまうだろう

そして彼にいつも寄り添う隻眼の男性
彼が共にいることが、その少年――――――ハルを更に少女らしく見せているのかもしれない


「ハル。またカウルの頼み事か?」
「うん、そうだよ」


さらり、と答えるハルに男性は軽くため息をついた


「ハル、お前は本当に…」
「だって兄貴のいうことだよ?兄貴の言うことは全部正しいんだよ?」


ハルは柔らかな笑み浮かべて男性を見た


「兄貴がリオナ様を守ってくださっているんだもの!俺が兄貴を守らなきゃ
 絶対に兄貴が言うことなら全部正しいんだ」


盲目的な信頼。
それが行き着く先など、大概変わりはしないのに

ハルだってそんなことわかっている
けど、信頼せずにはいられない
兄が、カウルが完璧な人間であったから。


「…………、レグルス、ごめんね…」
「ハル?」
「レグルスに頼らないと何にもできないのに、俺はいつも兄貴の言う通りに動いて…」
「気にするな、ハル
 それをわかりきった上でも俺はお前と契約したんだ」


レグルスは微笑んでハルを見た。
その優しげな眼差しには確かな強さが潜んでいる
それをみてハルは頼もしそうに微笑んだ


隻眼の彼、名はレグルス
正体はリアン、《猛々し獅子星(レオ)》。





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