Chapter:U
歌を口ずさむ少女の声が聞こえた
まだ、舌足らずなイメージもあるそんな声で懸命に音を紡ぐ、そんな声
「リオナ様、お時間です」
そんな声を断ち切る優しげな声に歌は止み、変わりに不満そうな声が帰ってきた
「もう終わりなのだ?」
「はい、お終いです
会議が始まりますよ」
「会議など、私の声など届かないのだぞ。私はただの飾りなのだぞ、行きたくないのだ」
しょぼん、としてしまうこの少女の名はリオナ=エレインド
公爵家、エレインド家の娘なのだが、まだ齢は11
両親も親戚ももうこの世には居らず、少し前に彼女の唯一の肉親である兄も姿をくらました
強制的に、半ばエレインド家の名目を保つために彼女は会議にも政治にも参加している
だが、そんな少女の言葉に耳を傾けるものなどおらず、リオナは肩身の狭い思いをしていた
会議の場では弱音など吐かず、その齢からは想像もつかないほど毅然とした態度を見せてはいるのだが、どうも会議が始まる前のこの時だけはいつもぐずる様な態度を露わにしていた
そのリオナの状態をいつも直しているのも、彼だ
「リオナ様、齢のことは仕方ないではございませんか
リオナ様が発言の力を持つ様になるまで俺が近くにいますよ
そのために俺がいるんですから」
そう答えリオナに笑いかけた青年
その笑顔を見て、リオナはおずおずと立ち上がると床に座らせていた人形を拾い上げてぎゅ、と抱きしめながら上目遣いで青年を見詰めた
そして、尋ねる
「…カウル、あの、私と、いてくれるのか?ずぅっと、なのだぞ?」
「それがリオナ様のお望みとあらば」
ニコニコと微笑みながらカウルが答えるとリオナは表情を明るくした
そして、ため息とともに言葉を吐き出す
「カウルが私のお兄ちゃんならよかったのだぞ」
「俺も、リオナ様のような素直な方が下弟妹(きょうだい)だとよかったのですが」
「…ハルはいい人なのだぞ?」
「…」
リオナの台詞を笑顔で受け流してカウルはリオナの手をとった
片手にカウルの手、もう片方に人形を抱いてリオナは会議場へと向かっていく
(ハル…か)
今はこの場にいない、弟の事を考えてカウルは小さくため息をついた
(ま、アイツはアイツの仕事をしてるさ)
カウルは前を見据えてクスリ、と笑った