ここにきみがいた
─────---- - - - - - -
たしかにいたんだ。ここに。きみが。
私たちは、恋人だった。
同じ部屋に住んでいた。
ずっと、ずっと、きみと一緒にいられると思ってた。
バスケをしている涼太が大好きだった。
初めて彼を見たとき、汗がキラキラ光って星のようだと思った。
そんな彼は、私を月のようだと言って、愛してくれた。
彼はモデルだった。
どこへ行っても女の子たちが群がってきて、
でも、「彼女がいるから」と、遠ざけていたらしい。
私の携帯に、一通のメールが届いた。
キセリョと別れろ
その一言だけ書かれていた。
それ以来、私の携帯に、誹謗中傷のメールや、脅迫のメールが届くようになった。
怖くなった。
涼太に相談しようと思った。
でもできなかった。
こんなことのせいで、涼太が輝けなくなったらどうしよう。
だから私は決めた。
好きだから、離れることを。
「別れよう」
震える手を隠しながら、私は涼太にそう告げた。
涼太は、すごく泣きそうな、一番見たくない顔をしていた。
そうさせているのは私なのに、目をそらす。
「もう、涼太のこと好きじゃなくなったの」
そんなの嘘。
ほんとは、大好きで大好きでしょうがないくらいなのに。
「俺は好きっス、大好きっス!俺のこと、好きじゃなくてもいいから!そばにいるだけでいいから!」
嬉しくって、でも応えてあげられなくて。
私は無言で首を横に振った。
「もう…終わり…?」
「…」
「もう…やり直せない…?」
「…」
「涼太、さよならだよ」
涼太が部屋を出て行って
私はひとりになった。
自分でやったことなのに、すごく後悔してて、
「なんで私泣いてんの…」
まだ少し、涼太の匂いがする。
そのうちに消えてなくなっちゃうんだろうけど。
「ここにいたのにね」
涼太の残り香を抱きしめて、涙を流した。
ここにいたよね
きみが
ここにいたよね
私も
閉じた扉の先のきみにさよなら
←