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「#幼馴染」のBL小説を読む
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蛍火

 目を覚ます。見慣れた布団と家の匂いが鼻孔をくすぐって、私はひどく安心した。
 夢を見ていた。なつかしい夢だ。寝た気がしない。寝汗をかいている。夜は少し暑かったから、夢見も悪くなるわけだ。
 悪い夢だったり、楽しい夢だったり。眠りにつくと広がるあの頃のまぼろしは、寝起きの私を多彩に包む。うわ死ぬ、と思って飛び起きたこともある。それだけ――前向きに言えば、充実していた日々、だったのだろう。
 枕元に転がしていたボールが開いた。勝手に出てきたのはミロカロスだ。彼は布団の上でだらだらしている私を見て眉間に皺を寄せた。おいおいハニー、イケメンが台無しだぜ。

「トレミー。おはよ」
「ふぉん」

 尻尾で床をぺしんと叩かれる。起きろってか。時計を見ると、いつもより五分ほど遅い時間だ。ああはい、起きます起きます。今日も仕事だもんね。嫁に起こされるだなんて、最高の朝だ。

 私はテレビよりもラジオ派だったりする。テレビはあまり観ない。アニメとドラマはパソコンからでも視聴できるし、最近はネットニュースも充実している。ラジオはたまに好きな音楽も流れるし、ただ単に私に合うのだ。
 朝食後の一〇分間。だらりとカフェオレを飲みながらラジオに耳を傾ける。アローラ地方は今日も晴れ。山間部ではくもり。時折雷雨となるでしょう。片手ではポケモンマルチナビをいじる。携帯端末はいろいろあったが、なんとなくで手に取ったマルチナビでも不自由はしていない。
 会社用のアドレス宛に、ビッケさんからメールが届いている。出張先の船のチケットが手配できた、という連絡だ。あー、再来週か。シンオウ地方は、初めてだな。
 じわ、と胸に沁みてくるこれは感傷だ。シキさんに会いに行ったときは、カロス地方だった。ソウキさんもいっしょだったので、サイカとも顔を合わせられた。出張が多いと行動範囲にアクティブになれるのは利点だ。幸い、あちこち飛び回ることについては抵抗がない。

「しゃも」

 こんこん、とヒナがテーブルを叩いてくれて気づいた。そろそろ家を出る時間だ。ラジオを切って、五人をボールに引っ込める。カップを台所に置いてカバンを引っ掴み、そのまま玄関へ。靴箱の上に置いていた金色の社章をポケットに入れて、ドアを開ける。
 仕事場では今日も、ゾロアが飛びついてくるのだろう。人間不信だったことが信じられないくらいだ。私が非番の日は拗ねることもあるらしい。
 退勤したら、夜はサチさんとご飯だ。どこで食べようかな。

「いってきまーす」

 誰もいない部屋へ声を投げて、家を出た。
 ゴミを出していた大家さんとすれちがった。おはようございます、と会釈をする。
 アローラ地方は日差しが強めだ。おかげで帽子、ないしは日傘が手放せない。日焼け止めも。
 ボールが弾けて、ラフレシアが出てきた。朝の陽ざしを浴びて背伸びをしている。気持ちよさそうだ。ノルさん、日向ぼっこ好きだもんね。初めて会ったときもそうだったし。
 慌てて走って行く子供は、トレーナーズスクールの生徒だろうか。その背をごろごろと追いかけていくアローライシツブテを見て微笑ましさを覚えた。あー、平和だなぁ。

 たまに、昔の私がまぶしく思えるときがある。振り返ったときはいつも、よくあんなに必死で頑張れたなぁ、と感心するのだ。心は何度も折れてはいたが、あの頃の私はそれでも、負けまいと死にもの狂いだった。何に? 現実に? まぁ、いろいろだろう。頑張ったなぁ。私はとても、頑張った。
 まぶしいと言えば、武将もだ。彼らはみな、一様にはつらつとしていて、私なんかとは違う天上の人たちだった。伊達さんは優しかったし、氏政公のことはとても好きだった。松永さんは許さねえ。竹中さんもシキさんのおかげで柔らかで――ああほら、やっぱり私は間違っていなかった。なんやかんや、彼らのことを、どうにも好きなままで私はここにいる。
 ……例えるなら、それは。蛍火のような日々だった――なんていうのは、着飾り過ぎだろうか。うん。やっぱなし。そんなにきれいなものじゃあ、ないかな。










 今でも昨日のことのように、覚えていることがある。ときどき思い出しながら、私は今日も暮らしています。










fin.



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