ひぐらし | ナノ
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テーマ「推しとの恋」
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一人だったら終わってた

 絶対障壁。すんでのところで展開されたまもるが、レジギガスの攻撃を無に帰した。トレミーが、私を守ってくれた。トレミー、この戦いが終わったら私と結婚しよう。
 焦るばかりの前のめりな頭でどうにか事態を好転させようと考える。ギガス、いきなりあらわれたってことは、移動手段はおそらくテレポートだ。ここにはドーブルがいたから、その子がスケッチをしてくれていたらギガスを外に出すことができる。このままでは、伝説級が放出するエネルギーで空間が圧迫されて窒息してしまいそうだ。なんかそういうの、伝説級はすごいらしいよ。ソースはジラーチ。現に私もだいぶ息苦しい。
 そして運は、私に味方した。ドーブルは、テレポートをスケッチしていた。ギャンブルとは無縁ですが賭けに勝ちました!
 レジギガスの気をなんとかそらしながら、ひねり出した策を竹中さんに相談する。相談っていうか、連絡だ。私はもう、これをするのだと決めている。ギガスとまともにやりあったらしい秀吉公は気を失っていて、今は豊臣軍のゴチルゼルが介抱している。秀吉公がやられるっていう点で、現状のヤバさをお分かりいただけただろうか。

「……僕は君を、魔獣以外には取り得のない子だと認識していたのだけれど」

 剣を杖代わりにようやく片膝をついているような賢人は、余裕のない私を見てふっと口元を緩めた。えっ、なんでいきなり高くもなかった評価を告白されているの。

「なぜだろうね。土壇場には、相当に強いようだ」

 この期に及んで喧嘩の大安売りですかコラ。今なら買いますよコラ。
 火事場の馬鹿力には、自信がある。この世界に来てからは、私はいつもこれ頼りだ。武将と出会う。ポケモンとバトルする。旅をする。何かを選んで、決断する。……必死だよ。私だって、必死なんだ。追いつめられると強い、だなんて生ぬるいもんじゃない。やらなきゃやられるのは、私なのだから。

「……よし、分かった。あれの相手を、任せよう」
「さ、最初から、その、つもりです」

 喉がひきつる。肺がひんやりとする。頷きこそすれ、私は素直に、レジギガスが怖い。

「――伝説級」
「……えっ?」
「聞いたことがある。伝説の、と冠される強大な魔獣も存在するのだと。あれはおそらく、そうなのだろう?」

 トレミーが吹雪を吐いた。足下を狙われた巨人の動きが、にわかに鈍る。
 私は竹中さんのせりふに、言葉を失った。だってそれ、そんなことはこの人に教えていない。レジギガスが伝説の、なんて、少なからず“ポケモンを知っている人”でなければ出てはこない。

「僕は、君ではない魔獣使いと、話をしたことがある」

 私を横目で見て、軍師は意地悪そうに言った。ど、どんなタイミングだと思って、いま、それを言う!?

「さ、行きたまえ。続きは、ぜんぶ片付いてからしてあげよう」
「に、二言は?」
「ふふ、ないよ。ほら、二度も言わせないでくれ。僕は待つのが嫌いなんだ」

 実に興味をそそる煽りをありがとうございます。俄然やる気が湧いてきた。私はドーブルと目配せをして、背筋を伸ばす。人々に背を向けて、暴力の限りを尽くすレジギガスに近づいて行く。足止めを任せていた手持ちを引っ込める。ふいに合う無機質な三対の眼に、心臓がすくんだ。息がつまる。
 発動する、テレポート。
 目を開ける。大阪城の地下とは程遠い、開けた外。向こうに城が見えるから、あまり離れてはいないらしい。雲の行きかう空、天候は晴れ。

『作戦は?』
「ないよ。けど、悲観はなしで!」

 ゴレムスのボールを開く。私の体が浚われて、立っていたところにレジギガスの拳がめり込んだ。ヒィー! 完ッ全に殺す気じゃあないですか!! 私が何したってんだ!!
 レジギガスは上空に逃げたこちらを観察している。かと思えばぢかぢかとまたたきだした光に、はかいこうせんの兆しを見た。やっばいですわこれは。標的を虚空にまでそらして避けるように指示する。人里に直撃するのはなんとしても防がなければならない。

「ごぅっ……!」
「っゴレムス!!」

 ちょっと、掠った。大丈夫か!?

「おわっ!?」

 ゴルーグを心配するのと同時、がくんとした揺れに伴って姿勢が崩れて宙に放り出される。あかん。私の握力しっかりして。肩にいるジラーチを引っ掴んでゴレムスにぶん投げる。信じられないものを見るような目を向けられた。ごめんつい反射で。そういやお前は浮けたんでしたね。許して。はかいこうせん撃ったあとだから追撃来ないのが幸いかいやーーーっ無理無理無理落ちる落ちてる! うわぁぁぁ落ち――!? オボェ。背中打った。痛い。

「無様の露呈もいい加減にしろよ」

 翼が空気を抱く音がした。けたたましく鼓動する心臓の震えを呑みこむ。現在地、ウォーグルの背中の上。柊さん、ナイスアシスト。大好き。いつ来てくれたんですか。ああよかった。本気で、死ぬかと思った。洒落にならん。





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