ひぐらし | ナノ
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それならどんなによかったか

 越後で請け負っている仕事はいくつかあるのだが、今回はある廃寺に向かっている。
 魔獣の捕獲をおこなっている賊がいる。海外や金持ち相手に儲けることが目的であるらしい彼らの根城がそこなのだ。
 「魔獣はそう怖いものでもない」ことに理解を示してくれているのが悪人だという事実は中々胃に痛い。あんまり怖くないやつらもいるな、ならこいつらで一儲けいくか! という思考回路は挑戦的で前向きだ。そしてたいへん気分が悪い。ウツボットにでも当たって痛い目見てほしい。パールルの貝に挟まれて骨折してほしい。
 問題はほかにもある。その盗賊は、一体のヘラクロスを仲間に引き入れているらしい。かぶとむしの魔獣、となるとヘラクロス一択だ。目的は賊の解体もそうだが、私がするのはヘラクロスの相手だ。
 謁見した上杉謙信は聡明な方だった。越後は比較的魔獣を見る目が穏やかで、それはこの土地を総べる謙信公の意向だ。

「俺様さ、魔獣使い様に会えたら訊きたかったことがあるんだよね」
「黙っていろ。仕事の邪魔だ」
「えー、いいだろ別に。それに俺様はかすがじゃなくて、カナメちゃんに言ってんの」

 うしろの忍び二人、忍んでください。
 廃寺への道は猿飛佐助が加わったことで一気にうるさ……にぎやかになった。柊さんとかすがさんは無暗に口を動かしたりしないのだが、真田の忍びは超喋る。しかも声が良い。でもこっちに話を振らないでほしい。現実では遠巻きにしたい人種だ。
 けれど、愛想を悪くして追々悪影響が出てくるのは嫌だ。甲斐に仕事に行くことなんてない、と断じることはできないのだ。
 なんですか、と振り向かないまま返す。隣にすたっと迷彩色が並んだ。身軽だなチクショー。

「実際のところさ。魔獣ってどっから来たの?」
「……やっぱ気になりますよね、そこ」

 大きな岩の上に向けて足を運ぶ。賊、こんな山奥にいるなんて、体力ある。私はあしたになるともれなく筋肉痛になるでしょう。生前よりも体力はついたが、流石に山登りとなると節々が悲鳴を上げる。

「カナメちゃんの国が、日ノ本を侵略するために魔獣を送り込んできたって考えもあるからね」
「いや。それは、ないです」

 段を上りきって膝に手を突く。息を整える。目線だけを持ち上げると、猿飛佐助はきょとんとこちらを見下ろしていた。
 「休憩を挟むか」とかすがさん。首を横に振って、さらに歩む。いま一休みしても、気が休まる気がしない。
 歯がゆいな。ジラーチなどにとめられているわけではないけれど、本当のことは話す気になれない。だって、信じないでしょう。

 魔獣は、異世界から来たんです。魔獣たちの世界で起こった異変があまりにも重なったものだから、見えない垣根に負担がかかりすぎたんです。だから壁がひび割れて、その穴から魔獣が、ぼろぼろと転がり落ちて――。……信じるか? 私だったら疑う。現実に、ジラーチからこれを聞かされたときは「うっそでしょ」と半笑いで突き返した。ありえないことが、起こっているのだ。
 イッシュまでの各悪の組織は末代までのろってやる。そうですこの事件は某英雄譚がきっかけになって起こりました。あくまできっかけだ。もともとホウエンなどのくだりでストレスは蓄積されていて、神話ポケが少し暴れたくらいで崩れるほどまでにガタガタにしたのはギンガ団だそうだ。そんなあちらは今、プラズマ団の王が行方をくらまして一年程が経過しているらしい。おのれ各悪の組織。お前らのせいだぞ! お前らの尻拭いを私がしている! それはそうとしてサカキ様万歳!

「なら、さ。魔獣たちはいつか、元いたところに戻ってくれたりすんの?」
「……さぁ。私も何もかもを、知っているわけではないので」

 できない、と言われたことを思い出した。数が多すぎて、できないのだと。いまだに、信じたくない私がいる。
 ――それができたのなら、私はこんなところにはいなかった。





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