フリースペース
僕のせいだ、と思っている。柊が死んだのは、僕のせいだ。
戦うことが苦手、だなんてあの場においては言い訳だ。意地でも残れば、彼は死なずに済んだはずだった。
『カナメ、手がとまっているよ』
ぼーっとしている様子を指摘する。「えっ?」と顔を上げた彼女ははっとして、「あ、うん」と上の空で停止していた食事を再開した。
朝の膳をつつく手つきはどうにもおぼつかない。食べ進めてはいるものの、味気がなさそうだ。
柊のことに、心が追いついていないのだろう。カナメのことだ、「私のせいだ」と思っているに違いない。そしてそれはたぶん、松雪サチも同じだ。
サチはきのう早くに寝付いたっきり、寝室から出てこない。もともと不慣れな旅に疲弊していたのだろうが、そこに追い打ちで今回のことがあった。彼女は普通の女の子、らしいから気を病んでいるのかもしれない。……病んでいるだろうさ。僕だって、さすがに苦しい。
朝食を食べ終え、食器を廊下に出したカナメは部屋の隅で膝を抱えた。
『……何をしているの』
「えっと……隅、落ち着くから」
それからふいに、天井を見上げる。
片方のこめかみを手の親指で押しながら、彼女は視線を畳に落とした。眉間には皺が寄っている。小さく短く溜息をついて立ち上がる。そこで閉まっていたふすまがかたた、と動いた。
にわかに開いた隙間は徐々に広がり、相変わらず暗い影を顔に落としている少女がのろりと出てくる。上からアンノーンも入ってきた。
「松雪さん。おはよう」
「……おはよう、ございます」
「ご飯の前に顔洗ってくるといいよ。あ、場所分かる? こっち」
変わらないな、と思う。カナメを観察していて、そう感じる。
演じているのか、見ぬふりをしているのか、それとも許容できないだけなのか――僕には分かりかねる。
でもきっと、そのうち彼女は泣くのだろう。心が現実に追いついたとき、カナメはそこで濁流みたいに涙を落とすのだ。
柊は、見返りがあるから僕らのそばにいてくれていた。
それがどんなに大事なことであったのかを、あの男は認知していたのだろうか。
前/
次 38/77
章目次/
表紙に戻る
top