北極星はどこですか
一番に思いついた私の願いは、世界を救うことよりも難しいものだったのだろうか。
ジラーチ。あんたほんと、私に負けず劣らず自分勝手だったよ。たった一言「眠りたくない」って言ってくれれば、私の願いはそれで叶ったのに。
ジラーチのことは大事だった。でもとうとう、私はあいつの本心をひとつも理解できないままにここにいる。意味が分からん。なんだよこれ。絶対とめられた。とめてよかった。
私は、納得してしまったのだ。ジラーチが「駄目」と拒んだのだから、叶えてはいけないことなのだと錯覚することにした。制止を振り切ってでもわがままを貫ける気概が、私にあればよかったのに。救えないな、本当に。私は結局自分から、あいつを手放したのだ。バカだよね、私は何がしたいんだ。
繭が溶けていった地面にふれる。ひんやりしていて、ざらついている。それだけだ。
短く息を吐いて、ねがいごとポケモンの置き土産を持ち上げて眺める。
最後の最後で、私は願った。ジラーチは私の願いを叶えたいと言ってくれた。それがあいつの願いであったのだから、「私の願いを叶えてほしい」と、むちゃくちゃに曖昧でふわっとした欲をこぼした。叶えてくれた。私の手には、三枚の短冊がある。おい、ジラーチ。お前どんだけ太っ腹なんだ。私は一回しか願っていないんだが。
三回だけ、私はなんでも叶えられる。許されるものでも、許されないものでもいいんだよとジラーチは言っていた。ここに私は、何を祈りたいのだろう。
元の世界に帰る? いいなぁそれ、今すごく帰りたい。世界滅亡なんて知るか。でも、やめておこう。私の居場所は、とっくに火葬されていてお墓の中だ。
柊さんをよみがえらせる? これもいいなぁ。もう一度護衛が雇えるというのなら、私はあの人が良い。でも本人に何か言われそうだ。こういうこと、たぶん嫌がるでしょうあの人は。やめておこう。
ジラーチを起こしてみる? ナイスアイデア。天才だ。でも、これもやめておこう。あいつはそういうことのためにくれたのではない。仕方ないと笑ってくれるかもしれないけれど、でもそれは、違うでしょう。
ああ、もう。バカは私だ。バカでごめん。なんで、こんな、ぜんぶかなぐり捨てて、ふたりに会いたい、ふたりに会いたい、みんないっしょがいいってただそれだけを願えたら――それだけでいいのに、ああもう――子どもになって、しまいたい。
唸ってうずくまる。胸の底がきりきりする。お腹、痛くなってきた。
ボールから、トレミーが出てくる。私の顔の辺りにまで首を降ろしてきて、私は彼の首をのろのろと撫でた。すり寄ってこられて、尻尾でそうっと背中をさすられる。こんなときばっかデレてんじゃねぇよ。そんなことされると、ああもう。枯れもせずに溢れた涙が、べたべたの頬をなぞって流れていく。私は向き直って、トレミーに抱きついた。ひんやりとしていて、鼓動が聴こえる。ふるる、と震えた彼の喉の振動が、私にも伝達する。ああ、いるね。よかった。トレミーは、ここにいるね。どこにも行っちゃ、だめだからね。
何もかもが、はちゃめちゃだ。勘弁してよ。こんな、戦国乱世なんてよく分からないところに、野放しかよ。私まだ……ああこんな、甘ったれた思考に笑いが出てくる。ラクばかりしてきた弊害だ。
柊さんがいなくなって、ジラーチもいなくなった。トレミーたちはまだそばにいる。でももう、こんなにも息苦しい。あのひとたちがいなくても私は生きていけるのに、息が苦しくてたまらない。
私はどうして、ここにいるんだっけ。
それでも踏ん張って、やることを、やらなきゃいけない。大丈夫。また立って、歩いて行ける。だって私、さっきまで立っていたんだから。大丈夫。大丈夫。私はまだ、頑張れる。
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